編集後記
 

自分たちのニューノーマルとは?(2020年8月号)

 今月号では、株式会社伊藤電機を取材し、伝統を守りながら新しい事へチャレンジしていく姿を紹介させていただいた。

 同社から管理者向けの社内研修の相談を受け、今月号の経営コーナーの執筆者である粕井隆氏を講師に迎えて研修を実施した。同社の伊藤社長は中小企業大学校時代に粕井ゼミのゼミ生であったとのことだが、これも何かの縁である。

 粕井氏が、常々言っている言葉に「ゆでがえるになるな」「ピンチをチャンスに変える」というものがある。蛙は浸かっている水が徐々に熱くなっても気がつかずにゆだってしまう、つまり「変化に鈍感で対応が遅れて経営悪化を招くことがないように」という教えだ。

 同社は、従業員の健康管理にIoTを活用しており、また、BIM構想(設計と同時に妥当性確認が可能な設計検証モデル)も検討されている。DX(デジタルトランスフォーメーション)、5Gなど、「ゆでがえる」にならないよう、変化への対応も考えられている。

 一連の新型コロナ騒動で、テレワークやデジタル化など企業のあり方は大きく変わりつつある。当研究所でも、4月からテレワークを実施した。導入を決定してすぐに社内システムをクラウド化し、翌週からはテレワークが実施された。

 テレワークを実施して感じたことは、思いのほか快適であったことだ。朝短時間のWebミーティングで1日の業務スケジュールを共有し、夕方短時間の報告により進捗管理も十分可能。時間をかけて訪問していた先も、自宅からWeb面談により、短時間で多くの先とコンタクトを取ることもできる。デメリットは、クラウドへのデータ保存を忘れると自宅で仕事ができなくなることで、テレワークで何をするかの事前準備が重要。また、オンオフの切り替えが難しく、働き過ぎに陥らないよう注意が必要である。しばらくはテレワークを併用しながら対応していく予定だ。

 当研究所が主催するセミナーも、全講座が中止・延期されたため代替策を検討。4月には「オンデマンドセミナー」を実施し、5月からは「オンラインLIVEセミナー」として無観客でライブ配信した。受講生からの反応が心配であったが、「講師やホワイトボードが近くで見られる」「資料の説明箇所が画面に映し出される」「講義中にチャットで質問することができ、講師は丁寧に答えてくれる」「Webセミナーながらグループ討議もできる」「録画再視聴が可能であり、疑問点の再確認、復習に非常に役だった」など、アンケート結果は概ね好評である。

 緊急事態宣言は解消されたが、集合研修の再開を求める声と、引き続き集合研修参加自粛の企業があり、6月からは、「会場参加+オンライン参加」併用の「ハイブリッド型セミナー」を実施している。当面は両方のニーズに応えていく予定だ。

 コロナは第1波が収束しつつあるが、第2波拡大の懸念もあり、引き続き3密を回避しながら経済活動を再開していく必要がある。社会・経済・生活のあり方が大きく変わっていくことが想定されるが、これらの変化を前向きに捉えながら、自分たちにとっての「新しい生活様式」「ニューノーマル(新常態)」とは何かを考え、チャレンジしていきたい。

河原 嘉人

 

レジ袋有料化の位置付けは?(2020年7月号)

 今月号の調査では、レジ袋削減に関し、7月1日から全国の小売店で一斉に実施される有料義務化にスポットを当てている。本誌3・4月合併号のプラスチック製ストロー問題に関しての寄稿に続くプラスチック問題シリーズ第2弾の位置づけである。

 プラスチックによる海洋汚染が世界的な問題となり、政府は昨年プラスチック資源循環戦略を策定した。その中で日本で排出される年間900万トンのプラスチックごみのうち、約400万トンを占める容器包装プラスチックを中心に、2030年までに使い捨てプラスチックを25%減らす目標を掲げているが、そのための具体的手法として挙げられたのがレジ袋有料化の義務化である。

 しかしながら、レジ袋の流通量は年間20~30万トンといわれ、使い捨てが多いとされる容器包装プラスチックごみの5.0~7.5%に過ぎず、レジ袋をクローズアップした国の施策は量だけ見るとどれだけの削減効果があるのかと首をかしげてしまう。

 レジ袋が使い捨てプラスチックの象徴のように扱われるのはわかりやすいからであろう。スーパーでレジ袋をもらうのを辞退することで一つ環境にいいことをしたと消費者が実感でき、イメージが良いからだ。

 今後は、本文にも紹介されているが、生分解性プラスチックやバイオマスプラスチックなどによるレジ袋化の動きも進んでいくと思われるが、中小事業者がこれらの代替品へ転換するための補助金や急激な環境変化による売り上げ減少に対しての支援などが必要だ。国の政策によって経済的苦境に立たされる企業は保護されるべきである。

 毎月掲載している「企業紹介」と「チャレンジ」 は、新型コロナウイルス特別措置法に基づく緊急事態宣言下の情勢を鑑み、取材活動、特に県を跨ぐ移動を自粛したことから、今月号は休載となりましたことにつきまして、おことわりとお詫びを申し上げます。取材を予定していた企業については来月号で取り上げる予定です。

 このような営業活動の制限にとどまらず、今回の新型コロナウイルスの感染拡大による企業活動の変化や影響は連日マスコミにより大きく報道されているが、御多分に漏れず当研究所の活動も取材活動のみならず、大きな変化を余儀なくされている。

 その一つ目は、在宅勤務によるテレワークを開始したことである。政府の要請であった出社人数の7割減には及ばないものの、5割程度の出社で対応できるよう、自宅から社内システムに接続できるようにするためのシステム変更を行うなど体制を整えた。

 二つ目には、集合研修方式で開催していた「北経研セミナー」のWebによる実施である。三密を避けるため、ビデオ会議システムの「Zoomミーティング」を利用したオンラインセミナーは使い勝手の良さもあり、好評である。今後は集合形式にオンラインセミナーも併用しながら、少しでも多くの受講者に提供できればと考えている。

 このようなIT技術を駆使したテレワーク化は、新型コロナウイルス対策にとどまらず、長時間労働抑制やダイバーシティーなどの観点からも、全ビジネスパーソンに求められている働き方の変革といえる。

 その意味で、IT音痴を自称する筆者などは、DXの流れに柔軟に対応する次の世代にバトンを引き継ぐ時機が到来しているのだと改めて納得している次第である。
 

人間らしさの所以たる脳のクセ(2020年6月号)

 2月に開催した当研究所主催の新春講演会の講演録を、遅ればせながら今月号に掲載した。講演会には東京大学薬学部教授で、気鋭の脳研究者である池谷裕二氏に登壇願い、第3次ブームで活用の進む人工知能をテーマとしてお話いただいた。

 最新脳科学の知見をわかりやすく伝える先生の著書にはファンが多く、マスメディアにも引っ張りだこの人気講師であり、新型コロナウイルスの流行が懸念される時機だったにも拘わらず、聴講者も定員を超えるなど盛会裏に終えることができたことを改めてご参加の皆様にお礼申し上げたい。

 当日の講演も、先生の軽妙な語り口と、人間の脳の癖を視覚で認識させるような画像を駆使した具体的な事例の紹介により、聴衆は話にぐいぐい引き込まれていき、あっという間の90分だったのではないだろうか。

 講演のまとめに人間の脳と人工知能の大きな違い、つまり「人間らしさ」は認知バイアスと呼ばれる「心の盲点」の存在であると話されたことが、特に印象的であり、腑に落ちた。認知バイアスについては講演でも紹介された先生の著書である「ココロの盲点」の中にもわかりやすく説明されており、興味深いので概要をご紹介したい。

 講演の中でも例示されているが、雑誌の購読申込におとり選択肢を追加することで生じる「おとり効果」や、ジャム購入時に選択肢を増やし過ぎた場合の「選択肢過多効果」などは典型的な脳の癖とされている。

 特に選択肢が多すぎることは、脳の同時に処理できる情報量の限界を超えることになり、購買意欲そのものが低下するらしい。顧客に気を利かせたつもりが逆効果になるという訳である。

 また、脳は労せずに手に入れたものよりも、何らかの対価を払って入手したものを好むらしい。「コントラフリーローディング効果」と名付けられているが、贅沢三昧の悠々自適の生活は憧れるところであるが、仮にそのような生活が現実となった時、果たして脳は幸せを感じるのだろうかと問いかけられており、労働の価値について考えさせられる。自分が間もなく迎えようとする年金生活の感覚は、働いて得た給料と同じ1円でもありがたみが違うように感じることになるのであろうか。

 さらに、「上流階級バイアス」なる認知バイアスの事例も紹介されている。最近運転マナーの悪さを示す典型的な事象としてよく取り上げられているが、横断歩道で手を上げた歩行者を無視して通過する車のランク別の比率について、普通車35%のところ、高級車は47%であったとされ、また、交差点で対向車を優先せずに無理に進入していく比率は、普通車が12%で高級車が30%と2.5倍になったそうである。他にも例を示しながら、「金持ちはマナーが悪い」という傾向を説明され、妙に納得してしまった。

 以上のような認知バイアスは、そうとわかっていてもつい落とし穴にはまり、なかなか修正できない脳のクセである。人は他人のクセには容易に気づくことができても、自分のクセに気づかないまま自信満々に生きており、最大の未知は自分自身であると著者は指摘している。そして、自分の脳のクセを知ることは余計な衝突を避ける予防策になり、自分に対しても他人に対しても優しくなれるとしている。自分自身の脳の「トリセツ」を作る必要がありそうだ。

 

新型コロナウイルスのもたらす影響(2020年5月号)

 新型コロナウイルスが世界中で猛威を振るっている。感染者は4月中旬で世界全体では200万人を数え、日本でも8000人を超えるなど、感染拡大の勢いは止まらず、オーバーシュートの懸念が高まっている。突然皆が死を意識する病に直面し、出口が見えず混乱する世界はまるで戦時体制下のようで、日常は様変わりし、人類は未曽有の危機に立ちすくんでいる。

 空気中に見えない脅威が漂い、次に何が起きるか予測しにくい不気味さが社会に重くのしかかっているようだ。

 歴史を振り返ると、感染症は人やモノの移動に伴って拡大してきた。グローバル化が格段に進んだ現代では、新型コロナウイルスの広がり方も従来の感染症に比べて格段に速い。WHOによるパンデミック宣言により、世界各国は雪崩を打って人の移動制限に動き、グローバル化が緊急停止するとともに、需要と供給を激減させて世界経済のもろさも露呈した。

 医療と経済の複合危機であり、感染拡大の防止とワクチン、治療薬の開発が喫緊の課題であるが、同時並行的に二正面作戦で世界が連携して取り組まなければならないのが経済対策・景気浮揚策である。言い換えれば、いかにしてウイルスの感染拡大を止め、そのために経済停滞をどこまで許容するかという決断を迫られているのである。

 政府がまとめた3月の月例経済報告で、景気は 新型コロナウイルスの影響で「厳しい状況にある」との判断を示し、6年9カ月ぶりに「回復」の文字が消えた。先行きも「厳しい状況が続くと見込まれる」としている。街角の景況感もヒト、モノ、サービスの流れが大きく滞ることにより急激に悪化しており、先行きの不透明感やサプライ チェーンの混乱から生産や投資など企業活動にも大きな影響が広がっている。上場企業の今3月期利益予想も相次いで引き下げられており、2月中旬以降の下方修正合計額は約1兆3000億円に達し、前期比13%減の見通しと発表されている。本号に掲載した「産業天気図」でも、今冬の雪のない穏やかな北陸の天気とは打って変わり、季節外れの台風到来かと思わせるくらい大荒れでランクダウンが目白押しとなっている。

 ヒト、モノの流れの停滞から生じる金の流れへの影響は、できるだけ小さく抑えなければならず、リーマンショック時のような各国協調の財政出動を中心とした経済対策の実行が急がれる。

 ところで、過去から感染症はその後の社会の有り様に大きな影響を与えてきた。14世紀に欧州の人口の3分の1が死亡したとされるペストにより、教会の権威が失墜し、封建的身分制度の崩壊と、主権国家による近代が誕生するきっかけとなった。20世紀初頭の第1次世界大戦中に大流行したアメリカ発のスペイン風邪は、アメリカ軍の欧州派兵に伴い欧州全体に蔓延し、兵士が大量に死亡したことにより、第1次世界大戦の終結を早めたとされている。今回の新型コロナウイルスについても大規模な社会変革の引き金になると思われ、特に、対面で行うよう習慣化されていたあらゆる活動が、デジタルで素早く済ませられるように環境が整備され、「情報型・非接触型社会」が進展すると言われている。今回の騒動鎮静化後に大きく飛躍するための未来のモデルづくりも行いながら、ピンチをチャンスに変えたいものだ。
 

プラスチック問題の今後の取り組みの方向性(2020年3・4合併号)

 今月号では、富山大学経済学部教授の小柳津英知氏から「海洋ごみ問題で忌避されるプラスチック製ストローの生産規模とその代替品を巡る諸問題」をテーマに寄稿いただいた。

 我々は実に多くのプラスチックに囲まれて生活し、その恩恵を受けている。食の安全、フードロス削減、共働き世帯や高齢者世帯の増加などの社会問題の解決やライフスタイルの変化への対応にプラスチックが大いに貢献してきたことは間違いない。

 しかしながら、レジ袋やストローなどのプラスチックごみによる海洋汚染の問題が契機となって、世界中で脱プラスチック議論が進んでいる。毎年約800万トンもの廃プラスチックが海洋に流出しており、このままでは2050年には重量ベースで海洋中のプラスチックが魚を凌駕するといわれ、食物連鎖に取り込まれことによる生態系への影響が懸念されている。

 そのため、SDGsにおいて17の目標のうちの14番目に海洋資源の保護が設定され、さらには、昨年6月に大阪で開催されたG20において、「海洋プラスチックごみによる新たな汚染を2050年までにゼロとすることを目指す」とした「大阪ブルー・オーシャン・ビジョン」が首脳宣言に盛り込まれるなど、世界共通課題としての取り組みが求められるようになってきている。

 日本における廃プラスチックを巡る現状について2017年の推計によれば、87%がリサイクルによる有効利用されており、残りの約14%が単純焼却や埋め立てに回っているようだ。有効利用率は上昇傾向にあり(2000年は46%)、多くが埋め立てに回っている米国などと比較すると高い水準にあると言われる。今後、この有効利用率をさらに高めていくことはもちろん、微生物の働きによって水と二酸化炭素に分解される生分解性プラスチックや、植物などの再生可能な有機資源を原料にするバイオマスプラスチックの開発や普及が期待され、産学官の連携強化が急がれている。

 さらには、使い捨て容器・包装のような不要不急なプラスチック使用を極力減らすとともに、できる限り長くプラスチック製品を使う、使用後は分別回収を徹底するという、より「賢い」プラスチックの使い方が求められる。これまで以上に無駄なプラスチック利用を減らすという視点が大前提とならざるを得ないのであり、これによって生じる大きな変化には、消費者や企業に大きな痛みを伴う可能性がある。利便性と環境負荷軽減をどう両立し、バランスをとっていくのか、プラスチックが深く浸透している日本の消費や社会生活のあり方を見つめ直し議論を深めていく必要がある。

 一方で、日本だけが取り組んでも問題解決には至らないのであり、国際的な議論を日本がリードしていくという視点を持つことも大切だろう。日本の技術やノウハウを他国の問題解決に活用していく役割を発揮して存在感を示すとともに、欧州中心に進んでいる規制・ルール作りで、日本にとって不利な規制やルールが出来上がってしまうリスクを避けなければならない。

 あらゆる分野で規制・ルール作りを巡る国際競争が激化している。新しい規制やルールが「ゲームチェンジ」を引き起こし、国家や企業の既存の競争環境に大きな変化が生じる可能性がある。背景にはしたたかな国際競争があることも認識しておく必要があるのだろう。

 

IPO後のさらなる成長を目指して(2020年2月号)

 今月の調査では地方の活性化は産業の発展に負うところが大きいとして、そのための一つの要因である北陸における新規株式公開(IPO)拡大の可能性を探っている。

 IPOにより、企業はプライベートカンパニーからパブリックカンパニー(社会的公器)への変革が求められることになる。

 パブリックカンパニーへの変革とは、適時適切なディスクロージャーを行える体制を構築するとともに、属人的経営から脱し組織的・計画的な経営を実践し、事業の継続性および収益性を確保できるよう自社の仕組みを見直していくことである。これはオーナー経営者に大きな意識変革を迫る。これはオーナー経営者に大きな意識変革を迫るものであり、IPOの達成で満足し、成長に向けての手綱を緩めてしまう経営者がいるとすれば、それはそもそも上場会社経営者となる資質に欠けると言わざるを得ない。IPO後にさらに重くのしかかる責任を背負う覚悟が必要だ。IPOを機会に全国で400万社以上ある会社のなかで上場企業3600社の1社に選ばれるという自覚をもつとともに、上場後の企業の成長を約束し、実現に向けた強い意欲と能力を有する企業だけが株式を公開できる資格がある。

 ところで、大手証券会社の発表によると、2019年のIPOは86件、その資金調達総額は3249億円の見通しとなっている。件数的にはほぼ例年並みの水準であるが、調達金額は18年のソフトバンク上場という大型案件の特殊要因を除けば、15年の1.8兆円をピークにして減少傾向にあるようだ。

 一方でIPO予備軍と言える未上場スタートアップのベンチャーキャピタル(VC)などからの資金調達額は18年が4254億円、19年は11月までに3200億円を超えておりIPOによる調達金額を上回る勢いだ。1社で100億円規模の調達となった企業も数社登場し、1社当たりの資金調達額の中央値は17年の5億円が、19年は11億円を超え、調達の大型化が過熱しているようだ。

 背景には運用難の中で年金基金や生損保など機関投資家の大口マネーが流れ込み、VCのファンド規模が膨らんでいることがあげられている。スタートアップにすれば取り巻く環境が活性化していることは歓迎すべき状況であり、順調に成長していけば今後IPOの増加も予想される。

 しかしながら、IPOの数がKPIとなってはならず、繰り返しとなるが、重要なのは上場後も成長を拡大していく企業が増加することであり、成長が停滞してしまっては日本の産業全体を活性化させることにつながらない。専門家は上場後の停滞につながりやすい主な要因に、①資金面、経営面で良き協力者であったVCが、上場により大半の株式を売却することでその両面のつながりが一度になくなること、②人員など組織規模の拡大に対しミドルマネジメントが追い付かなくなること、③単一事業の「執行」から複数の異なる事業をポートフォリオとする「経営」への変化が求められること、④資本市場とのコミュニケーション方法の変化などをあげている。

 スタートアップの経営者は大半が創業者であり、一つの事業を成功させた体験をもっているが、その成功体験の延長線上に、その会社のさらなる成長があるとは限らない。成功体験は成長の原動力ではあるが、反面、制約にもなりうる。思い切って過去を自己否定することが、上場後の成長を担保する大きな要因なのかもしれない。

 

「平成の経済」(小峰隆夫著)を読み終えて(2020年1月号)

明けましておめでとうございます。

本年も「北陸経済研究」のご愛読をよろしくお願い申し上げます。

 年号が「令和」に改まり初めてのお正月である。過ぎ去った「平成」時代の経済を振り返り、これからの「令和」の時代の教訓とするにはいいタイミングとして、恒例の新春対談には大正大学教授で、旧経済企画庁の生え抜きのいわゆる官庁エコノミストである小峰隆夫氏にご登場願った。

 小峰氏は、平成という時代はその時代を切り取って、一つの塊として議論の素材とするだけの十分な意味をもっているとして、昨年4月に『平成の経済』を上梓された。

 本対談は本書の記述に基づき、著者の見解を再確認するとともに、事実の背景記述しきれなかった思いも汲みとろうしたものであるが、対談記事とともに是非本書のご一読をお勧めしたい。本書の内容の大部分は、「予想を超えてうまくいった」昭和経済に対し、課題解決のお手本がなく「予想外に難しかった」平成という過去をマクロ経済を中心として振り返るものである。

 思えば平成経済は試練の連続だった。平成への改元はバブル絶頂期のタイミングに当たり、経済の分水嶺であった。その後のバブル崩壊と不良債権問題、アジア通貨危機と金融危機、リーマンショック、デフレの進行、人口減社会への突入など、われわれがこれまで経験したことのない難しい課題に翻弄され続ける歴史だった。

 本書では一連の過程を、「バブル崩壊」(1990年代前半)、「金融危機とデフレの発生」(1990年代後半)、「小泉構造改革と不良債権処理」(2000年代前半)、「民主党政権とリーマンショック」(2000年代後半から10年代初め)、「アベノミクス」(2012年末以降)と5つのステージに分け、それぞれの特徴を明晰にまとめている。

 さらに、本書の特色としては、単に事実を述べるだけではなく、多くの出来事の相互関係を明らかにし、ストーリー性をもたせていることである。平成時代の経済に起きたことは意外な展開を見せ、実にドラマチックであることから、歴史の動きをエキサイティングに描こうとしている。

 また、政治と経済の関係にウエートを置く中でできるだけ政策的教訓を導き、後世の参考にしてもらおうとしている。そのために必要となる政策的評価には、著者自身の価値判断も前面に出されている。つまり、必ずしもリアルタイムで課題を認識できない民意のもとで、民主主義のプロセスに沿った政策決定をどう行っていくかが全編にわたり問いかけられているのである。

 その例として以下のような軽減税率に対するくだりがあるので紹介する。「国民から政策運営の負託を受けた政治家は、単に世論に迎合するのではなく、時には世論を説得して長期的な道を誤らないようにする責務がある。軽減税率の採用は政治家がその責任を放棄したように私には見える。」

 デフレの克服、財政・社会保障改革、人口減少、衰退する地域への対応など多くの課題が平成から引き継がれている。小峰氏の問いかけが新しい令和の時代に活かされていくよう期待したい。

 本書のテーマとなった時代と同じ時代に金融マンの端くれであった筆者にとっては、正に自身が体験し振り回された問題であり、本書に接している間は自らの30年が走馬灯のように甦り、感慨深い時間であった。

 

構造改革が加速する日本の小売業(2019年12月号)

 今月の企業紹介では、能登地区を中心に地域に根を張り、50年以上の歴史を有する食品スーパーの「株式会社どんたく」を訪問し社長にお話しを伺った。ターゲットを明確にした商品戦略や、地域のスーパーとして地域住民にどのようなお手伝いができるかという視点の重視について本文でも触れている。とりわけ、今後に無限の可能性を秘める若き経営者が、地域で一番「ありがとう」が集まる場所づくりを目指すと力強く語る姿が印象的であった。

 北陸の食品スーパーを取り巻く環境は厳しさを増している。域内相互のみならず、北陸地域外からの進出も加速する同業他社との競争激化、低価格の生鮮食料品を目玉商品として集客を図ろうとするドラッグストアやコンビニエンスストアなどとの異業態間競争、そして拡大するEC市場への対応としてのネットスーパーの展開など対応すべき課題は多岐にわたっている。

 地域スーパーは自らの生きる道をローカライゼーションと再認識し、地産地消の商品を充実させ、マーチャンダイジングを強化した売り場を作り上げることは言うまでもない。さらには、店舗イベントの開催などを通じて顧客とのコミュニケーションを深めるなど、実店舗ならではの付加価値を提供していくことがこれまで以上に求められることになるのだろう。

 また、「こちらから顧客に近づく」という事業モデルも必要であろう。その意味で当社の移動販売やフィットネス事業は正鵠を射ており、顧客の来店を待つという姿勢では生き残りはかなわない時代になっている。

 さらに、小売業界全体に目を転じると、地方の人口減少やインターネット通販との競争で、日本の小売業は構造改革が加速し、大きな転換点にあると言われている。

 小売業の代表格であり、地域のコミュニティとして地域文化を支えてきた百貨店業界は、地方都市での売り上げ減少に歯止めがかからず、この10年間で約60店舗が閉店、特に今年は全国で10店以上が閉店に追い込まれると報じられている。売上高も昨年は5兆9000億円とピークの1991年から4割の減少となっているが、なかでも地方の独立系百貨店は12年連続の減収と大都市圏との格差がますます拡大している。北陸でも大和高岡店が8月で閉店し、西武福井店は2021年2月に新館の営業終了により売り場面積の4割削減を発表するなど百貨店不況の大波は北陸にも押し寄せている。

 一方で地域の人々が集うコミュニティとして、また、地域が持つ魅力を発信する場として集客を一手に引き受けている感のするのが大型ショッピングモールである。富山県では、「ファボーレ」や「イオンモール高岡」が相次いで増床によるテナント入れ替えを実施、石川県では、一昨年「イオンモール新小松」がオープン、さらに2021年には北陸最大級となる「イオンモール白山(仮称)」を開業すると発表されている。

 人の流れが郊外のショッピングモールに集中し、街中の中心商店街がシャッター街となり空洞化のさらなる加速が懸念される。

 われわれの世代は、子供の頃親に連れられ百貨店の屋上遊戯場で遊び、ファミリーレストランで食事をするのが一番の楽しみだったが、今後はイオンでしか遊んだ記憶がない若者が購買の中心となる時代が到来する。 団塊の世代を主要マーケットとして恩恵を被ってきた時代は大きく変化していく。

 

消費税引き上げに伴うキャッシュレス決裁のポイント還元制度は、複雑怪奇な状況にはなっているが、この機にキャッシュレス後進国からの脱却が急務(2019年11月号)

 今回の消費税率引き上げ後の個人消費について、ポイント還元や軽減税率などの政策効果が出て、増税の影響は限定的で景気の底割れは回避するとの見方が多いらしい。

 前回引き上げ時の2014年4~6月期の個人消費が、年率換算で前期比17.7%減となり、GDPも7.3%減と増税直後の景気が急激に落ち込んだのは記憶に新しい。

 政府は今回2.3兆円規模の対策を打ち出し、増税前後の需要の平準化を目指しているが、消費下支えの期待が大きいのがキャッシュレス決済のポイント還元制度である。

 しかしながら、このポイント還元制度は中小企業対策という別の政策目的も重ねたことから、中小と大手、大手のFC加盟店では政府によるポイント還元補助金が異なるものとなっている。これが軽減税率ともからんで実質税率を何通りも発生させる結果となり、消費者に混乱を招くことが懸念されている。10%の消費税が適用される商品は5%のポイント還元で実質税率は約5%、2%還元で8%となり、8%の軽減税率が適用される商品は3%または6%となる。また、ポイント還元のない大手スーパーなどでは実質税率は8%と10%で変わらないため、3、5、6、8、10%と5種類の実質税率が存在することになる。

 これに加え、大手チェーンでは直営店とFCが異なる対応となるのはまずいということで、直営店については自腹で2%還元を実施するという事業者も登場、また、QRコード決済事業者独自の多様なポイント還元キャンペーンの実施なども加わり、まさに複雑怪奇な状況を生み出している。

 さらには、ポイント還元の方法も通常のポイント付与に加え、還元の恩恵をより実感しやすくするため即時値引きで対応するケースも登場、ポイントの還元時期や還元の上限額も事業者により千差万別である状況がわれわれの混乱に拍車をかけている。

 消費者がどの店でどんなキャッシュレス決済をすればお得になるのか認識を深め、自由自在に活用できるようになった頃にポイント還元制度も終了などということにならなければよいのだが。

 一方、このポイント還元制度を活用しようとする中小事業者の制度対象店舗申請に伴う認定状況について、開始時の導入店舗が約50万店となる見通しと発表されている。対象となる中小事業者200万店の4分の1の水準に留まり、今後順次追加になるであろうが、制度の終了時期もすでに視野に入る中で費用対効果も勘案し申請を見送る事業者も多いようだ。

 制度期間内の決済端末導入費用や加盟店手数料の補助をうまく活用してキャッシュレス化を進め、今月の調査レポートにあるように、省人化や現金管理コストの低減などを通じて店舗の生産性を高めていくことが求められているのである。消費者の利便性向上の観点からも、今後の対象店舗の増加が期待される。

 また、今後の大きな課題としてデータの利活用推進が強く訴えられている。

 客層や売れ筋など個人の消費行動をビッグデータとして分析することにより、新たなサービスの創出や顧客の開拓など前向きな営業活動に繋げるということを認識し、具体的な活動に移すことが必要なのだろう。

 いつのまにか世界のキャッシュレス文明から取り残されたことに危機感を強め、キャッシュレス後進国からの脱却が急務である。

 

環境問題に取り組む企業を評価するESG投資が欧米で比重を増しており、我国でも企業経営の視点には不可欠(2019年9・10合併号)

 今月号のチャレンジでは、もみ殻循環プロジェクトを展開しているNSIC(エヌシック)株式会社を取り上げた。

 その処分方法が厄介とされてきたもみ殻の農業、工業、環境保全分野への利活用を目指す同社の取り組みは、地球にやさしい循環型社会を創造するものであり、今や世界の共通課題である環境問題への対応に大きく貢献していくものとして期待される。

 このような企業活動はとりもなおさず、プラスチックごみに代表される環境破壊や、CO2が引き起こす温暖化による気候変動などを含む、17の国際社会に共通する課題の達成を目指すSDGsの精神と合致するものである。さらに、SDGsはこうした目標の達成に向けた主体を民間企業に置くことでその取り組みを促そうと設定されたものであることから、企業にとっては、ビジネスチャンスの拡大や企業価値向上にも資するものになるであろう。そしてその結果、取引先をはじめ従業員・投資家・地域などさまざまなステークホルダーからの評価を高めることに繋がっていくことになると言える。

 とりわけ投資家からの評価という点では、ESG投資が日本でも最近注目されている。財務情報のみならず非財務情報である環境(E)、社会(S)、企業統治(G)の要素を主体にして長期的に企業価値の向上に取り組む企業であれば、リターンも大きくなるであろうという投資判断に基づく手法である。世界各国から長期的に優れたパフォーマンスを得るための投資手法として認知されており、その投資残高は約2200兆円に上ると言われ、運用資産に占めるESG投資比率は、ヨーロッパは52%、アメリカは21%を占めるまでになっているようだが、日本はまだ3%程度に過ぎず出遅れの感がある。

 もっとも、公的年金運用機関である年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が2017年に3兆円のESG投資を実施することを発表、これがトリガーとなりSDGsへの取り組み強化の動きと相俟って、各自治体や学校法人、金融機関などを中心に拡大の動きも見えてきている。

 2018年度末にはGPIFのESG投資残高は3 兆5000億円に達しており、企業に規律の強化や、長期で安定的な経営による成長を促す効果は今後さらに大きくなるだろう。 投資される企業の方も、ESGの視点はもはや一時的なトレンドではないということを強く認識し、これまでの経営の在り方を見直す段階にきていると言える。企業のガバナンスの中に環境や社会という視点をしっかり組み込み、意思決定や行動する際にその視点が欠けないようにする必要がある。

 言い換えれば、ESGを長期戦略に組み込み、その長期戦略から中期計画や年度計画、さらにはバリューチェーン全体の活動に落とし込む。そして、それらの活動の結果を開示し、ステークホルダーからの意見、要望を受け止めて次の計画に活かしていくことにより、その持続可能性を高めることが求められているのである。自社でPDCAを回すだけでなく、社会を取り込んだ大きなPDCAサイクルを経営の中につくるということであろう。残念ながら現状では、日本にこの要件を備え投資対象となる株式や債券がまだまだ少なく、国内外から投資を呼び込むには市場の育成が課題とされている。

 本号で取り上げたNSICのように、環境に真っ向から取り組む企業が数多く投資対象となるまでに成長する日が楽しみである。

 

RPA(ロボテイック・プロセス・オートメーション)が注目されている。導入の成否は、目的が成果量(付加価値)増大なのか、労働投入量の削減なのか、社員に理解してもらうことがカギだろう。(2019年8月号)

 2019年1~3月期のGDPの実質GDP1次速報値は前期比0.5%増、年率換算で2.1%のプラス成長であったが、事前の市場予想ではマイナス成長が見込まれており、それを覆すポジティブサプライズとなった。

 6月10日発表の2次速報値でも、企業の設備投資の上方修正を主因として、前期比0.6%増、年率換算2.2%増と小幅な上方修正となり、2四半期連続のプラス成長と発表されている。ただ、輸入が落ち込んだ結果、外需が計算上成長率を押し上げた面が強く、「景気の実態は見かけほど良くない」と指摘される構図は、1次速報から変わっていない。もっとも、設備投資については、自然災害から回復した前期からの反動や、中国経済の減速などの影響で落ち込みが予想されていたのだが、法人企業統計では設備投資額が前年同期比6.1%増と大幅に増えており、春先まで底堅さを保っていたと確認されたことになる。

 しかしながら、米中貿易摩擦の激化による中国向けのスマートフォンを中心とした半導体市場の冷え込みなどに伴い、今後は設備投資の減少が深刻化することが予想され、米中の貿易戦争は制裁と報復をエスカレートさせ、泥沼化の様相を呈している。

 注目されたG20での米中首脳会談では、一旦中断していた貿易協議の再開が決まり、米国による対中関税「第4弾」の発動は一旦回避されたが、両国の摩擦が強まるリスクがなくなったとは言えず、日本企業は警戒を解くわけにはいかない。国家主権をめぐる争いにも発展しつつある対立は勝者なき消耗戦であり、終わりが全く見えない。

 また、今回の企業経営動向調査(BSI)では、労働生産性について各経営者の認識や考え方を尋ねている。少子高齢化が進み、労働人口が減少していく日本では、限られたリソースで競争力を維持するためには生産性の向上が欠かせない。

 2015年の日本の就業者1人当たりの労働生産性は、OECD加盟35カ国中22位と遅れをとっており、今後2065年までに労働力人口が4割減少するという見通しの下では、労働生産性が現状と変わらなければ、日本全体のGDPも4割減少することになる。

 生産性向上に向けた取り組みはこれまでも働き方改革をはじめさまざまな効率化手法を導入して各企業で取り組まれているが、システム化、アウトソーシングなどに相応の先行投資が必要になることや、現場社員が新しいことに取り組む時間がないことなどが労働生産性改善に向けた動きの阻害要因となっているようだ。

 そんな中で今注目されている生産性向上手法がRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)で、比較的少額の投資で大きな効果が期待できるとされ、主としてデスクワーク上で人間が担ってきた定型的かつ繰り返し行う作業は、今後RPAによりそのほとんどが自動化し、1日の作業時間は10分の1程度になると言われている。

 RPA導入が成功するかどうかのカギは、導入の目的が労働生産性の構成要素である成果量(付加価値)増大なのか、労働投入量の削減なのかを経営者が効率化の対象となる業務の社員に明示し、一人ひとりに期待する役割を理解してもらうことだろう。

 それにより、社員が削減した時間とパワーを何に振り向けるかを見つめ直し、やりがいを感じられるようになれば、RPAはその効果を如何なく発揮すると思われる。

 

今月の調査‘農業における女性活躍‘では、女性の持つ感性が6次産業化に代表される農業の多様化に生かされている実例を紹介。プロの女性農業家を育て、農業における男女平等を実現していく時代が到来。(2019年7月号)

 今月は3月に中部大学特任教授の細川昌彦氏を講師に迎え開催した講演会の講演録を掲載、世界経済をテーマにしたメディアの解説や討論番組に、最近特に活躍が目立つ同氏の講演は、今、最も関心が高いと思われる米中を中心とした経済冷戦を取り上げ、大変興味深く、時宜を得た話であった。

 特に、講演の後半で解説されたファーウェイの問題は、その後同氏の予想通りの展開を見せ、5月に米国は輸出管理規制に基づく禁輸措置を発動、それを受け、グーグル、インテル、クアルコムなど米ハイテク大手が雪崩を打って取引関係見直しに動いている。日本は同社の部品・部材調達の1割(約7200億円)を一国で支えており、どこまで影響が出るのかわからないという状態で、今年後半のハイテク産業の業績を下押しすることが懸念されている。

 今後、中国の報復措置も予想され、両国が禁輸措置を発動し合うことになれば、世界の貿易圏は二分されかねない。

 大国の相克の下、グローバル経済という概念が揺らぎ始めている。

 また、今月号の調査では女性の活躍の中でも農業分野にスポットを当て、その現状と課題について述べている。

 かつて高度成長時代に「三ちゃん農業」(「じいちゃん・ばあちゃん・かあちゃん」が農業を営み、「とうちゃん」は出稼ぎで外に働きに出ている状況)という言葉があった。経済発展に伴い農村地帯においても農外収入が主となっていったこと、そして女性農業者が農業界では欠かせない存在となっていたことを示す言葉でもある。家族経営が主流である日本の農村社会において、女性は農作業だけでなく家事・育児などをすべてこなすことが当然視されてきたと同時に、農作業においては無報酬の単純労働者としての役割を主に期待されてきた。

 こうした農村社会の閉鎖性と、産業としての農業の地位や魅力の低下が相まって、「農家の嫁不足」をもたらし、全体としても従事者の高齢化と減少が進展してきた。

 皮肉にも、こうした日本農業の厳しい現実を前に、関係者間で女性農業者に能力を十分に発揮してもらわざるを得ないという認識がようやく広まり、女性農業者の活躍の必要性が理解されつつあるようだ。政府の施策も、女性農業者の「生活改善」「活躍推進」へと軸足を移している。

 加えて、農業者が作りたいものを作れば売れた時代は終わり、農業生産もマーケットインの発想で行わなければならない時代となる中で、女性ならではのネットワーク力や消費者・生活者目線などは農業生産現場に必要不可欠となっており、さらに、女性の持つ感性は本文でも述べているように、6次産業化に代表される農業の多様化にも活かされるところ大であるようだ。

 女性ならではの食卓に近い視点を活かした商品企画、心のこもった手作りによる食品加工、根気強さと粘り強い仕事振り、顧客との細やかで気配りに溢れたコミュニケーションなど女性の持つ力は、これからの農業の中でますます存在感を増していくはずだ。とはいえ、現状は女性の参画状況はまだまだ少なく、女性が6次化に参加しやすい仕組みを地域全体で構築する必要がある。

 そして、女性のさまざまな能力を活かす環境整備を通じてプロの女性農業者を育て、農業という職業においての男女平等を実現していく時代が到来している。

 

トップインタビュー、清川メッキ工業(株)の“働き方改革”を先取りした対応に感銘。業務効率化や生産性の向上を図りながら、従業員の生活を豊かにし離職率を劇的に改善(2019年6月号)

 「令和」に改元後最初の号となる本誌の冒頭を飾る「トップインタビュー」で清川メッキ工業株式会社会長の清川忠氏にご登場願った。その経営論は大いに参考になるところであるが、とりわけ、数千億の商品のメッキ不良率を0にした驚異的な技術力の向上と、これを成し遂げるための大きな要因でもあったISO取得に向けた取り組みを通じ、残業や休日勤務の減少を図り新人の離職率を劇的に改善した話は、世の中の働き方改革の動きを先取りし、しかもその本質をついた対応がなされていたと言えるものであり強く感銘を受けた次第である。

 人口減少局面に突入し、労働力不足という課題が浮き彫りになった平成。そして新しい時代の幕開けとともに働き方改革関連法がスタートするが、1947年の労働基準法制定以来70年ぶりの大改革となる。中でも長時間労働や過労死の防止を目的に、あえて罰則を付けてまで残業時間の上限規制や年次有給休暇の取得義務を盛り込んだことが大きな特徴となっている。

 そして、働き方改革の本質の一つは生産性の向上であることは論を俟たないところであり、そのための手段として残業削減や有給休暇の取得などの取り組みが進められるのだが、ともすると残業を削減することや有給休暇を取得することが目的化し、数字の達成が主題となり一人歩きをしてしまいがちになる。

 ある調査によると、働き方改革を進めている企業のうち「従業員満足度が向上した」は17%、「メンタルヘルスを損なう従業員が減った」は9%、商品開発力がアップした」は4%に留まったという結果が出たとしている。このような結果は「残業をしてはいけない」など型を押し付けるだけで、仕事の進め方や内容、評価制度などに踏み込まないことに起因すると考えられる。

 社員が生産性の高い業務に集中できるようにビジネスモデルや戦略自体を変えたり、顧客との関係性を見直したり、時間あたりの生産性や成果を基準にした評価制度を導入したりといった、深層部までおよぶ改革に踏み込んでいる企業がまだまだ少ないということだろう。

 組織は大きくなればなるほど、本来の目的を見失い、手段を目的として動いてしまいがちになるとされる。業務の効率化や生産性の向上を図りながら従業員の生活を豊かにし、ひいては幸福感を増大させた結果が離職率の大きな改善につながった当社の経営は、これから取り組もうとする多くの企業にも参考になるものであろう。

 また、本号から数回にわたり、一昨年より当研究所が事務局となって中小製造業のIoT活用のお手伝いを行ってきた「IoT活用推進フォーラム」の活動報告として、ワーキンググループ活動の中で展開された会員企業の取り組み内容を紹介することにした。

 初回は全体の概要を把握いただくものと位置づけ、次号以降個別企業の詳細な事例を紹介、提供していく予定にしている。

 いずれの企業の取り組みもまだ緒に就いたばかりであり、その意味で「現在地」という副題を付している。この中からはIoT活用を目指し、試行錯誤しながらも現場の改善を積み重ね、収集したデータを経営情報として活用すべく経営者自らがマネージメントを発揮する地域製造業の姿が見える。

 本連載がIoT等の新しい技術に挑戦しようとする企業活動の示唆になれば幸いである。

 

次世代のモビリテイシステムであるMaaSについて(本編調査紹介)一日本型MaaSを実現するために官民挙げて研究に拍車がかかっている。背景に、ビジネスモデルの大きな変革のうねりへの危機感がある。(2019年5月号)

 CEATEC JAPAN2018にみる先端テクノロジーの可能性と活用と題し2月号からAI、IoTと掲載してきたが、今月号は100年ぶりの大変革期とされる自動車業界において開発が進む自動運転技術の状況や、これと特に密接なつながりを有し、連動するかのように進展が予想されている次世代のモビリティシステムであるMaaSについてご紹介している。

 現代社会では目的に合わせて多様な移動手段が利用できるが、本文冒頭で述べているように、モビリティ全体に関わる種々の課題が深刻化しつつあり、既存の移動手段が未来も継続的に利用できるのか危うい状況になってきているといえる。

 そして、指摘されるような課題の解決に向け、既存の移動手段のあり方を時代に合った形に再定義することがMaaSの狙いとされ、あらゆる移動手段をまとめ、移動したい人や運びたいモノそれぞれの目的に応じた最も効率的で効果的な移動手段を提供するサービスとして進化が期待されている。

 特に、政府の「未来投資戦略2018」において、初めて「Society5.0」実現のためのフラッグシッププロジェクトとして位置づけられたことにより、多くの企業がMaaSの実現と普及に向けて自社の狙いに合ったサービス像を描いて積極的に取り組み始めているようだが、各業界個々の動きを業種を超えた動きにまとめ、いかに利用者の目線から全体最適化していくかが日本型MaaSを創出するための鍵になるといえよう。

 政府もMaaSを提供するシーンを「大都市型」「大都市近郊型」「観光地型」「地方都市型」「地方郊外・過疎地型」の5類型に分類し、2019年度予算で法規制や技術、人材育成などの課題を洗い出すための実証実験を計画しており、官民挙げての研究に拍車がかかっていくようだ。

 代表的な例としては、トヨタとソフトバンクの共同出資会社「モネ・テクノロジーズ」が有名だが、直近では小売り、物流、不動産、商社、金融など幅広い企業約90社が連携する組織を発足させ、ライバル関係にあるホンダまでも巻き込んだMaaS開発のプラットフォーマーになるとしている。

 サービスの利便性や精度を高める上で欠かせないのがデータであり、移動のルートや渋滞状況、利用者の需要予測などデータが多いほど分析の精度が上がることから、個社では限度のあるデータを持ち寄り価値を高める狙いだ。また、MaaSの前提となる自動運転の実用化の鍵は膨大な走行データの収集と分析であり、トヨタとホンダは次世代を見据え、1社では限界があるデータ収集やサービス開発で手を組むなど「競争」と「協調」を使い分ける。

 ダイムラーとBMWも高級車市場で競争する一方、MaaS領域は事業統合し、カーシェア、配車、駐車場予約、充電、複合交通などの5つの事業に再編した共同出資会社を設立するなど規模を意識した動きは急である。

 これらの動きから窺えるのは「いつ実になるかわからないが、指をくわえて見ていてはビジネスモデルの大きな変革のうねりへの対応が手遅れになる」という危機感にほかならない。どこかの自動車会社のように、カリスマ経営者の逮捕劇に端を発する経営の覇権争いのゴタゴタに、いつまでもエネルギーを費やしている時間はないということだろう。

 

普及が遅れているキャッシュレス決済について- 本年10月からの消費税引き上げに伴うポイント還元策をはじめ、東京五輪、大阪万博に向けて、急速に普及が加速していくと考えられ、地域経済活性化につながることを期待(2019年3・4合併号)

 今月号から経営コーナーで「キャッシュレス決済」について掲載している。今月は主に普及が遅れているとされる現状について、次号は多様化する決済手段についてその内容を中心に説明する予定にしている。

 キャッシュレス第1世代をクレジットカードとすると、交通系や流通系を中心とする電子マネーは第2世代、そして今注目を集めるQRコードを用いたスマホ決済サービスは第3世代と言え、IT企業を中心に金融業以外の異業種からの参入も相次ぎ、新たな決済手段として積極的に取り入れる動きが急速に広がる。SNSからの拡大を狙う「LINE動きが急速に広がる。SNSからの拡大を狙う「LINEPay」や楽天の「RPay」、ソフトバンクとヤフーが展開し、100億円還元キャンペーンで話題を呼んだ「PayPay」などはその代表としてあげられる。

 このようにネット各社が決済サービスに注力する背景には、リアルの購買データを獲得したいという狙いがあるとされる。

 彼らの稼ぎ頭となっているネット広告がさらに効率的に成果を上げるためには、従来の年代や性別などの切り口に購買データを掛け合わせることにより、細かくターゲティングし精度を向上させることが必要と判断されているのだろう。

 加えて、周辺事業の拡大も視野に入っているようであり、特に個人向けのスコアリング(信用評価)事業にヤフーやLINEなどが参入を表明している。スコアリングには利用者ごとの膨大な決済データが、支払能力を直接確認できる情報として重要度が高いとされ、これをもとにネット上のみならず、ローンやグループの多様なサービスなどの提供により、リアル世界での優良顧客との接点を増やし自社の経済圏に囲い込もうとする戦略の展開が見込まれる。

 言い換えれば商品やサービスを買うという行動がデジタル化されることで、多くのビジネスが生まれる可能性があると言える。

 一方で、政府は本年10月に予定される消費税率10%への引き上げに際して、消費テコ入れ策の一環として、キャッシュレス決済した消費者にポイント還元するとしており、ビッグデータ分析による消費の活性化効果や事務効率化や人手不足改善などの生産性向上の期待も込めて、前のめりの姿勢となっている。もっとも、政府予算によるポイント還元については、税収が足りないから消費増税を行うという理屈との矛盾を感じることが禁じ得ないのであるが…。

 また、店舗側としても、20年の東京オリンピックに加え、25年には大阪万博の開催も決定、これに伴い増加が期待されるインバウンド対応に向けてキャッシュレス化は必要不可欠となる。そして、今回設備導入費用の補助金もあることから、ここで導入しないとポイント分を損することになる客が離れていく危険性も生ずるので、導入が加速度的に進むことが予想される。

 今後焦点となるのは、高齢者が多く、消費者や中小小売店経営者の意識も低いとされてきた地方での普及であろうが、大和総研の調査によると、中国地方や北海道のキャッシュレス決済比率が急速に高まっているとされ、北陸地方も4年前比較で5%増の14%と関東地方の伸び率を上回っているそうだ。この動きは、上述のような諸要因によりさらに加速すると考えられ、本年がキャッシュレス決済の本格普及元年となり、地域経済の活性化につながっていくことへの期待が高まっていく。

 

外国人労働者の受け入れ拡大については、国際的な人材獲得競争が始まっており、“選ばれる国”、“選ばれる企業”になるための環境づくりが必要(2019年2月号)

 外国人労働者の受け入れを拡大する改正出入国管理法が成立、2019年4月1日から施行されることになった。人手不足解消のため、今後5年間で約34万人を上限として一定の技能を持つ外国人や技能実習終了後の希望者に新たな在留資格を与えるもので、これまで認めていなかった単純労働分野に門戸を開くことになり、外国人労働者を巡る大きな政策転換と言えよう。

 外国人労働者は2017年に全国で127万人余りとなり、この10年で2.5倍以上に増加、富山県でも約1万人が従事、特に最近の3年で約3700人増加したと報じられており、この勢いはさらに加速することが予想される。今月掲載の企業経営動向調査(BSI)の中でも、外国人労働力の活用について今後の方針を尋ねているが、人手不足が大きな経営課題となっている現状を反映し、増加させていきたいとする企業が中小企業に特に多く見られる。また、政府に期待する政策についても、日本語教育の支援拡大や滞在可能期間延長などの要望が強いようであり、今回の法改正がそれらの解決に向けての第一歩になることが期待される。

 しかしながら、今回の法改正については国会でも指摘されたが拙速の感は否めず、内容の多くに不透明な部分も多く、年末に政府策定の総合的対応策などにおいてもなお具体性に欠けるとされ、人権侵害や劣悪な労働環境が広がらないようしっかりとした制度と監督体制を築き上げることが重要だ。

 特に今回の改正の土台となっている現行の技能実習制度については、働きながら技能を学んで母国に持ち帰るという本来の主旨からはずれ不可欠な労働力を確保する手段となっているのが実態と言われ、人権侵害などさまざまな問題が指摘されている。

 2017年に7000人を超え、この5年間でのべ2万6000人にも上るとされる外国人技能実習生の失踪者の実態については、「低賃金」「長時間労働」がその主な理由に上げられており、都合のいい使い捨ての労働力として酷使されているのではと野党からも追究が厳しい。新制度が第二の技能実習制度と呼ばれ、労働関係法令違反が頻発し、人権侵害を伴う安価な労働力確保の制度となることは許されず、今回政府は入国管理局を「出入国在留管理庁」に格上げし、悪質企業の排除を目指すとしており、役割は重大であり有効に機能することを期待する。

 また、外国人労働者の受け入れに際し、安心して暮らせる基盤をつくることも急がれる。言語や風土が異なる異国で働く外国人の生活環境や日本語教育制度の整備を行いながら、地域の文化や風習に理解を求め、いかに外国人との共生社会を構築していくかも大きな課題である。コミュニケーションの不全で生活上や意思疎通面でトラブルが発生するようなことはあってはならない。

 国境を越えた人材の争奪戦、国際的な獲得競争がますます激化することは必至である。今回受け入れ対象国として協定を締結するアジアの9カ国も生活レベルが上がり、自国で働き続ける人も増加しているようであり、また、SNSなどを通じて情報交換し、評判の悪い国は避けられるらしい。

 第二次大戦後外国人労働者が人口の4分の1を占めるまでになったスイスのある作家の言葉「我々は労働力を呼んだ。だが、やってきたのは人間だった。」を肝に銘じ、「選ばれる国」「選ばれる企業」になるための待ったなしの環境づくりが必要である。

 

“人生百年時代”が現実味を帯びつつある。新春対談にご登場いただいたエリーパワー株式会社、吉田社長のご活躍に感服。(2019年1月号)

 明けましておめでとうございます。

 本年も「北陸経済研究」のご愛読をよろしくお願い申し上げます。

 平成最後のお正月を迎えるにあたり、この30年の来し方を振り返っていらっしゃる読者も多いのではないだろうか。

 昭和から平成へ変わった頃と現在の大きな環境変化のひとつが人口減少・少子高齢化であることは論を俟たないところだろうが、中でも高齢者の活躍は今や国家的な政策課題としてクローズアップされている。

 新年号の冒頭を飾る新春対談にご登場願ったエリーパワー株式会社の吉田社長は、都市銀行の副頭取というサラリーマン人生における最高峰まで登り詰めたといっても過言ではないにもかかわらず、本文で述べられているような熱い思いと高い志により69歳にして当社を起業、81歳の今日に至るまでにリチウムイオン電池のパイオニア企業に成長させるなど、高齢者の活躍という時代の希求に応えるトップランナーであり、その生きざまに畏敬の念を禁じ得ない。

 現在7万人程度の100歳以上人口が2065年には53万人に達し、167人に1人が100歳以上になるという政府機関の推計も示されるなど、「人生100年時代」というフレーズが現実味を帯び、吉田社長にはおよばないまでも、100歳まで生きて良かったと思えるための個人の生き方や社会システムの在り方を考えるべき時期が到来している。

 現状のわれわれの生活設計モデルや雇用システム、社会保障システムは戦後の高度経済成長期以降のサラリーマンが中心となった時代に形作られたものがほとんどであり、夫婦に子供二人の核家族が標準世帯となり、年功序列や終身雇用を大前提として一つの企業に定年まで勤め上げ、年金生活に入るという人生70年程度のライフコースはもはや通用しなくなっている。

 人生100年時代のライフコースは、人生の途上においてしばしば修正を余儀なくされ、画一的であった人生70年時代に比して多様化したものになることが予想される。

 定年までの雇用が保障されなければ、転職や起業が普通になり、そのための学び直しも必要になる。自分のライフスタイルや家族との生活を優先させ、裁量権のある働き方を選ぶ人が増えるだろう。

 ベストセラーになった「ライフシフト 100年時代の人生戦略」では、このような多様化する100年の人生を生き抜くために無形の資産を身に付けることを勧めている。①生産性資産:仕事の生産性を高め、所得を増やすのに役立つスキルと知識、②活力資産:肉体的・精神的健康と良好な家族関係、③変身資産:変化に対応できる柔軟な態度と人的ネットワークの3つがあげられているが、これらは「稼ぐ力」「生きる力」「変わる力」とも言い換えられる。

 つまり、不確実性に富んだ時代に、長期化した人生を安心して幸せに暮らし、100歳まで生きて良かったと思える人生を実現させるには、変化する環境に適応する能力を身に着けることが大きなポイントになるということである。

 吉田社長のご活躍は、これまでの銀行員人生におけるさまざまな業務経験の中で体得したこれらの能力を、第2の人生で力強く発揮・活用し、見事に成果を結実させたものと改めて感服する次第であるが、わが身を振り返ってみると遅きに失したと「後悔先に立たず」である。

 

新しい観光戦略の立案に、数値データに基ずく分析を活用することが有効。また、水素エネルギーの利活用については、各企業においても「持続可能性に関わる価値」の増強を図る観点から、検証が望まれる(2018年12月号)

 今月号の調査では、今後ますます拡大が期待されるインバウンドを中心とした観光産業の競争力を高める戦略を、ビッグデータの活用にスポットを当てて報告している。

 インバウンドの旅行スタイルは年々変化しており、団体旅行が主流だった頃はツアーを主催する旅行会社に、人気の高い時期やコース、どこからの国が多いかなどをヒアリングすれば、訪日観光の状況が即座にわかったが、昨今個人旅行が多くなるにつれ、実態が掴みづらくなってきたことが、数値を活用したマーケティング戦略が重要視される背景にあるようだ。

 従来の統計では収集できない顧客データへの期待は大きく、産業活動、周遊行動、消費行動、旅行地に対する評価などに関わるデータの取得・活用を如何に効率よく進めるかが課題となっている。

 観光庁では、携帯電話の基地局情報(ローミングデータ)、携帯電話のGPS情報、SNSでの投稿情報などを組み合わせて調査することを推奨しているが、本文でも述べているように、データ保有主体も異なることから課題も多いようであり、それぞれのデータの強みと弱みを認識し、調査目的を明確にした上で最適なデータを使って分析することが重要なのだろう。

 経験則に著しく依存した観光戦略から脱却するため、数値データに基づく分析は有効と考えられ、その性質を正確に捉えた適切な運用こそ、地域に根差し、人とお金の循環する観光地づくりにつながる。

 さらには、データ活用による国際競争力と生産性の高い観光産業への変革を図ることにより、地域経済の持続的成長の実現に大きく貢献していくことを期待したい。

 また、「トピックス」として、関心が高まる水素エネルギーの利活用について、富山県における取り組み事例を中心に紹介し、今後の課題についても列挙している。

 水素社会の実現によるCO2の排出抑制は、地球温暖化対策に大きく貢献することにつながり、これはとりもなおさず2015年の国連サミットで採択されたSDGs(持続可能な開発目標)の達成に向けた活動の一つとなる。法的拘束力はないが、日本を含む各国政府はSDGsの達成に努めることを約束しており、2030年までの今後10年以上、社会問題解決の取り組みに関するグローバルな「共通言語」として位置づけられることになるだろう。

 各企業においても、SDGsが12兆円の新規ビジネスを生み出すと言われているとおり、新規市場開拓や事業成長の機会創出(水素社会の実現もこれに該当するであろう)や、企業価値を測る尺度の一つとなる「持続可能性に関わる価値」の増強を図ることにより、取引先・従業員・投資家・地域などさまざまなステークホルダーからの評価を高めるチャンスと捉え注目が高まっている。

 逆に言えば、SDGsで掲げられた目標を達成できなければ、社会の持続可能性が損なわれる可能性が大きく、それは企業の事業活動の基盤が損なわれ、企業自体の持続可能性にも大きく影響することになる。ましてや近年ESG投資の普及により、SDGsの目標達成に貢献しない業種・企業への投資を控える動きが活発化するとともにサプライチェーンの選別の条件にもなりつつあるようだ。

 企業は社会の持続可能性と同時に自社の持続可能性を確保するために、どう貢献できるのか、事業が目標達成を阻害していないかを真剣に検証しなければならない。

 

自然の猛威に備えたいー事業継続計画(BCP)の本質とは、製品やサービスの供給責任を全うすること。BCPの見直しには、企業の生存要件であるとの認識で取組むことが望まれる(2018年11月号)

 今月号では、半期に1度の「産業天気図」を掲載しており、これまでの調査では全般的に天候は安定的に推移しているようだが、本物の「天気図」の方は年初から大荒れだ。

 年初のいわゆる「五六豪雪」以来の降雪量となった大雪に始まり、7月には上旬の西日本豪雨、それに続く中旬からの全国的な猛暑は過去に例を見ないような雨量や気温を記録、そして「東から西」へと異例のルートをたどった台風12号や、関西空港をはじめ近畿地方に特に深い傷跡を残した台風21号など枚挙にいとまがない。
 さらには気象現象ではないが、震度6以上を記録した6月の大阪北部地震や9月の北海道胆振東部地震の発生も含めて、平成最後の夏は押し寄せる自然の猛威にさらされた夏であったと深く記憶にやきつけられ、犠牲者の数や被害状況に言葉を失う。

 被災された地域の皆様には謹んでお見舞い申し上げますとともに、被災地の1日も早い復旧をお祈りいたします。

 これらの自然の猛威は日本経済に大きく影を落とし、今後の景気後退が懸念されている。4~6月期の実質GDPは堅調な個人消費や企業の設備投資を追い風に年率3.0%増と、2年3カ月ぶりに年率3%以上の成長となったが、7~9月期については、各調査機関では相次いだ自然災害の影響による消費や企業活動の停滞により、大きく成長が鈍化するとの見方が多数を占めているようだ。特に、今回の物流網や電力エネルギー関係施設などを中心とした産業インフラの機能停止は、サプライチェーンを寸断し、事業活動と財務パフォーマンスに大きな影響を与え、その存続までを脅かすリスクとなることをあらためて認識させている。

 各企業は、このような自然災害や事故、設備の故障などの各種リスクによる企業活動への影響を想定し、予め防災・減災対策、災害発生時や発生後の対応措置などをまとめた事業継続計画(BCP)を策定、サプライチェーンの中で発注要件になりつつあることもあり、その重要性はますます高まっているといえる。

 しかしながら、BCPについては中小企業の策定率が10%程度に留まっているという調査結果があり、まだまだ広がりがみられない状況であることに加え、策定済み企業においても必ずしも有効に機能していないケースも多いようであり、その原因についていろいろと指摘されている。

 例を挙げると、サプライチェーンや主要取引先の変更や組織の改編などに伴う定期的な見直しがされていない、名前はBCPだが中身は防災計画、目標復旧時間が机上の空論で具体的な手順が定められていない、訓練の形骸化、本社機能の継続性確保対策強化といった具合である。

 BCPの本質は製品やサービスの供給責任を全うすることであり、サプライチェーンマネジメントを徹底することである。言い換えれば、非常時にどのお客さまにどの製品・サービスをいつまでにお届けするのか、そのためにはどのような代替措置を準備しておくのかを明確にし、企業全体の認識や行動を統一しておくことが重要だ。

 今年のように多種の災害が同時に起きることが想定されていなかったこともあり、BCPを見直す動きもみられるようであるが、企業にとって今や重要な生存要件であるとの強い認識で取り組むことが望まれる。

 

「スタートアップ」に期待が集まっているが、今回のブームでは大手企業との連携の動きがみられることが従前との違いの一つ。徐々に成功事例が増えていくことを期待(2018年9・10合併号)

  地域イノベーション戦略をテーマとしたMBA講座の講義録を掲載しているが、各講師からその大きなポイントとして論じられているのが起業であり、特にデジタル化の進展によるビジネスチャンり、特にデジタル化の進展によるビジネスチャン

 スタートアップについては厳格な定義は存在していないようだが、既存企業が手掛けていない革新的な製品・サービスやビジネスモデルに挑戦し、大きなリスクは伴うが成功した場合のリターンが大きく、社会や経済に与えるインパクトも強い「急成長志向」の企業とされることが多い。新しいやり方で価値を創造することが、イノベーションを創出することにつながることから、その存在に期待が集まっている。

 特に、2014年頃から立ち上げのブームともいえる状況にあり、IoT、AI、VR、ロボティクスなどのデジタル技術に立脚したスタートアップが日本でも相次いで立ち上がっており、メルカリ、キューラックス、ソラコムなどの注目企業も出現している。

 今回のブームでは従前に比し、スタートアップの事業環境に大きな改善がみられており、その一つに優秀な人材の流入が挙げられる。日本人は起業に挑戦する意欲に乏しく、安定志向やリスク回避志向が強いと言われているが、今回はいわゆるエリートコースを歩んできたようなタイプが立ち上げに挑戦するケースが散見され、スタートアップはその構成メンバーも含めて「アウトローばかり」というイメージが払拭され、社会的な評価も高まりつつある。

 また、立ち上げと成長を直接・間接に支える組織や仕組みが段階的に整備されてきており、ベンチャーキャピタルを中心とするリスクマネーの拡充や、インキュベーター・アクセラレータ、コワーキングスペースなどの組織も相次いで立ち上がっている。

 このように環境が整いつつある中で、オープンイノベーションの追求が喫緊の課題となっている大手企業にスタートアップへの接近、連携の動きが見られ、事業環境のさらなる改善も予想されるところである。

 スタートアップにとって大手企業は、製品・サービスの販売先の確保、共同研究などによる技術向上、買収によるエグジット、資金調達等の面から存在意義は大きい。特に、エグジットについては、昨年来大企業の傘下入りを選択する企業が増えている。

 一例としてソラコム→KDDI、スマホ学習塾の葵→Z会グループ、ロボット開発のライフロボティクス→ファナック、レシピ動画のデリー→ヤフーなどのケースが挙げられ、いずれも大企業の資金力や資産を活かして成長速度を上げようとしている。

 ただし、大手企業とスタートアップは組織運営や文化の面で大きく異なる。組織構造が階層的かフラットか、内部統制が確立しているか、リスクへの姿勢が回避的か追求的かなど枚挙にいとまがないが、両者が試行錯誤を積み重ねて互いに理解を深めながら連携のノウハウを確立していくという強い意志が必要となるのだろう。

 そのためにも互いの人事交流は重要であり、特に大手企業にとってスタートアップ人材への理解を深めることが円滑な運営のための大きなカギとなるといえよう。

 大手企業にとってオープンイノベーションはもはや待ったなしのテーマであり、双方が連携の道を模索する中で徐々に成功事例が増えていくことを期待したい。

 

金融業界も構造不況業種にあげられるが、各地方金融機関は長い歴史の中で培った信頼・信用をベースにビジネスモデル改革を進め、取引先の成長に貢献していくことで持続的な成長を維持していくことは今後も可能なはず(2018年8月号)

 今月号の調査では印刷業界やブライダル業界を事例に挙げ、「構造不況」と言われる状況からの克服について考察している。

 構造不況といえば、昨今金融業界もその代表業種のように各メディアで報道されている。長く続く低金利政策により総資金利ザヤがほとんどゼロあるいはマイナスとなっていることや、預貸率68%(2016年3月期の銀行114行平均)が示すように、資金調達手法の多様化や企業の内部留保の増加により資金需要が乏しいこと、中小企業の廃業数増加などから、貸し出しによる収益増加が期待できない状況に陥っている。

 また、EC事業者をはじめとする異業種の参入が、とりわけBtoCやCtoCの領域における決済事業を脅かす存在になりつつあり、店舗やシステムなどの高コストのレガシーインフラを抱えたままでは、競争力の低下は避けられなくなるであろう。

 超低金利環境が日本の成長力低下を反映したものだとすれば、早期の収束は期待薄であり、資金仲介を収益の源泉とする伝統的な商業銀行モデルはもはや成り立たず、非連続的な変革が必要だとメガバンクのトップも発言している。

 これに呼応するかのように、メガバンクは相次いで人員や業務量の削減案を示し、3グループ合計で3万2000人分の業務削減を実施するとしており、波紋を広げている。

 一方、地方金融機関の方でも、先般「地域金融の課題と競争のあり方」という資料が金融庁から発表され、各地方銀行の本店を構える道府県で、本業(貸出・手数料ビジネス)で稼いだ収益で人件費などの営業経費を賄えるかを分析、その中で複数行での持続的な競争が可能でない地域はおろか、1行単独になっても不採算とされる県が北陸三県を含む23に上るとされた。

 個別行の存在可能性を試算したものではなく、簡易な競争可能性の試算であるが、いささかセンセーショナルであり、全国各地で進む地方銀行の再編、経営統合の動きがさらに加速するのではと考えさせられる。

 さらには、少子高齢化と人口減少が進行するなかで、地方の衰退は預金を枯渇させていくことも懸念されている。いわゆる「遺産マネー」の東京集中により、地方金融機関の預金残高が減少、融資量も減少を余儀なくされ、結果として地域経済の衰退を早めることにもなりかねないとまで言われる。

 日本銀行の調査では、県別の預金残高の増加額が、この5年間では全国で115兆円だったのに対し、そのうち東京都が約67兆円と58%も占めているとされ、その大きな要因として「遺産マネー」の東京流出加速が窺われるところである。

 これらの構造不況と言われる状況に対応すべく、各金融機関は地域の再生や取引先の成長をサポートすることによるビジネスチャンスの創出や、フィンテックの活用による新たな決済のプラットフォームの構築、膨大なマンパワーを要している業務プロセスのロボティクスやAIによる代替、店舗機能における新しいチャネルの開発などさまざまな構造改革の動きを活発化させている。

 長い歴史の中で培った信頼・信用をベースに、最先端の技術を活用したビジネスモデル改革を進め、他業種との差異化あるいは提携やオープンイノベーションに取り組み、取引先の成長に貢献していくことで、金融機関自身も持続的な成長を維持していくことは今後も可能なはずである。

 

いわゆるデータサイエンティストなどデータを取り扱う人材の不足が、これからの大きな課題----ビッグデータ時代の国家戦略として、データ分析の専門家育成を目的とした高等教育機関の整備が求められる(2018年7月号)

 毎年4月から7月にかけて、富山大学を中心にして北陸銀行と当研究所の協力により開催されている、大学院生や社会人を対象にしたMBA講座が今年で第10回の節目を迎えた。今年度は「北陸地域経済の活性化と地域イノベーション戦略」をテーマとして、富山大学教授陣を中心に行政、実業界などからも幅広く講師を招き、地域イノベーションを通じた新しい地域活性化モデルがどのようなものか、産官学金の先進的な取り組み事例を踏まえながら考察していくプログラムが展開されている。

 今年度はその内容を広く当研究所会員の皆様とも共有すべく、今月号から3カ月にわたり講義録を掲載する予定にしており、会員企業において、従来の延長線上の思考から脱却した、革新的なイノベーション戦略の立案に資するものになればと思う。

 また、当研究所40周年記念講演会のシリーズ3目回となる、経済産業省の福島審議官の講演録も掲載しているが、国家レベルでの地域産業政策の柱として、地域の特性を活かした成長性や生産性の高い新たな分野に挑戦する「地域未来投資」により地域全体を成長させていくという政策が紹介されている。これはMBA講座のテーマにも相通じる内容と言え、地域が牽引する経済成長への期待が如何に大きいかがあらためて感じさせられるところである。

 この中で生産性を高める投資を行っている北陸地域での実例も紹介され、第4次産業革命の代名詞であるIoT、ビッグデータ、AIなどの技術の導入により、集まった大量のデータが利活用され、成果を上げていると述べられているが、一方で日本は有効なデータの利活用をしている企業がまだまだ少なく、集めたデータの分析が現状の把握に留まっているケースが大部分であるとも指摘されている。

 この要因としては、膨大なデータの中から有益な情報を見いだすには、統計などのデータ分析の知識や経験のある人材が必要となり、一朝一夕の教育では人材育成とその確保が難しいことが挙げられる。総務省のデータ流通・利活用に関する調査でも、いわゆるデータサイエンティストなどデータを取り扱う人材の不足が日本企業の大きな課題とされている。

 データサイエンティストの役割やポジション、求められるスキルもまだまだ曖昧な状態のようであるが、基本的にはデータの分析だけでなく、ビジネスモデルの深い理解のもと、そこから新たな知見を導き出す能力が求められている。

 また、データ処理や統計学に関する知識はもちろん、豊富なIT知識、ビジネスの内容を把握して課題や予測モデルを導き出す能力、さらには、それを社内調整や交渉により、まとめあげるだけのコミュニケーション能力も必要とされ、企業の意思決定に大きく影響する人材といっても過言ではないであろう。

 科学技術白書では、統計学や機械学習などのデータ分析の訓練を受けた大学卒業生の数は、1年間に米国が2万4730人で世界1位なのに対し、日本は3400人で同11位と大きく水をあけられていると指摘されており、別の調査では日本では、将来的に25万人ものデータサイエンティストが不足すると予想されているらしい。ビッグデータ時代の国家戦略として、データ分析の専門家育成を目的とした高等教育機関の整備が、今こそ求められていると言えよう。

 

40周年記念講演会で説明された“規制のサンドボックス(砂場)”に注目。この制度の枠組みを十分に活用し、新産業・技術革新の創出に期待したい(2018年6月号)

 3月に当研究所は設立40周年講演会を迎え、これを一つの節目とすべく記念講演会を2回実施した。(講演録は本誌5月号から7月号まで3回にわたり掲載します)

 その中で、講師の竹中平蔵氏と福島洋氏(経済産業省技術総括・保安審議官)の両名がともに時間をとって説明された「規制のサンドボックス(砂場)」という単語が強く印象に残った。

 子供が安全の確保された砂場で思い切り遊ぶように、革新的な新事業を生み出すため事業者に現行の規制を即時適用せず、実証実験を行いやすくする取り組みである。

 第4次産業革命において、産業や企業の国際競争力を強化するには、革新的技術の研究開発から事業化までの期間短縮化が一層重要になっている。「規制のサンドボックス」は、技術力を有していても完璧さや安定感を好む国民性、新しい分野におけるルールなき状況に慎重な経営者などの要因もからみ、社会実装が遅いとされる日本が、技術進化に応じた規制改革のスピードと第4次産業革命を牽引するイノベーションの創出を大きく加速させるための「新しいチャレンジ」となる制度と位置づけられる。

 現在検討されているのは、他国のようにフィンテック分野に限らず、IoT、自動運転、AI、ロボット等幅広い分野の技術が対象になっている。この制度の枠組みを十分に活用するため、「まずやってみる」「走りながら考える」の精神のもと、竹中氏の発言にあったバブル後の日本が陥ったとされる「中年症候群」から脱却する強い気構えで取り組むことが必要になるのだろう。

 本制度により将来、どんな新産業や技術革新を生み出されるのか大いに注目したい。

 「新しいチャレンジ」と言えば、企業紹介で高齢者の地方移住モデルとして注目されている「シェア金沢」を取り上げた。地方創生の先駆的事例として、全国の自治体からも視察が相次ぎ、増田寛也氏の「東京消滅―介護破綻と地方移住」でもCCRC(生涯活躍のまち)として紹介されている。

 シェア金沢はもともと障害者を中心に据えて、多様な世代や年齢の人が繋がっていくために構想・開発されており、本来のCCRCが目指す高齢者が健康な状態の時に入居し、その後介護や医療が必要になっても快適に過ごすことができる高齢者中心のコミュニティ施設とは性格を異にしている。

 とはいえ、本文でも紹介のとおり、県域を越えて移り住む高齢者が多いのは、多世代と交流しながら、健康でアクティブな生活を送ることが可能であるとともに、就労可能な施設が存在することも大きな理由となっているのではないだろうか。

 都市部から地方への高齢者移住者数が減少トレンドにある中で、移住を決断する強い後押しの一つとなるのは、高齢期における確実な就労保障と考えられ、慢性的な人手不足状態にある福祉・介護分野で、「元気な高齢者」が「介護や福祉を必要とする高齢者」を支える仕組みを構築することが必要と思われる。言い換えれば、「生涯活躍のまち」づくりは総花的な施策を展開するのではなく、「高齢者の就労」にポイントを絞っていくことが、安心して移住を決断できる施設になり得ると言える。

 その意味で、シェア金沢には、障害者に加えて高齢者も含めた就労支援制度の採用などにより、「就労機会創出の場モデル」としてさらなる充実を期待したい。

 

健康経営の推進一経営戦略として従業員の健康づくりに投資することが企業としてのリターンに繋がる。さらには退職者も視野に入れることがポイント(2018年5月号)

 今月号の企業紹介では、富山県を中心に総合的な健診機関として確固たる基盤を築いている(一財)北陸予防医学協会を取り上げ、永田理事長から当協会の果たしてきた役割の変遷や提供するサービスの進化などについてお話を伺う機会を得たが、とりわけ、今注目を集める健康経営の推進について熱い思いを語られたことが印象に残った。

 特に、健康診断や人間ドックを受診しても、結果について深い認識がないままで、指導内容や健康づくりに無関心な人が多いこと、また、事業所の方でも「要治療」「要精密検査」と判定された従業員に対し、充分フォローができていないという現実に強い問題意識を有しておられ、この解決のためには各企業による健康経営の実践が欠かせないと力説された。

 健康経営は、従業員の健康保持・増進のための取り組みが、将来的に収益性等を高める投資であるとの考えの下、健康管理を経営的視点から捉え、戦略的に実践することとされる。そして、これによる従業員の活力向上や生産性向上等の組織の活性化を図り、最終的に業績向上や組織としての価値向上に繋げることを目指している。

 つまり、経営戦略として従業員の健康づくりに投資を行うことで、企業としてリターンを得ていくという考え方である。

 今、この健康経営が強く求められる理由としては、社会全体の視点として高齢化の進行による健康リスクとそれに伴う医療費の増大が上げられるのは言うまでもない。

 国民医療費が2015年度で約42兆円、その内75歳以上の医療費が3割を占めるという現状に対して、健康経営の推進により健康寿命の延伸を図り、医療費の過度な上昇の抑制とともに、日本全体の活力の増大、社会保障費増による将来不安解消の一助にもなることが期待されている。

 次に、企業の視点から見た理由が上げられ、高齢化の進行による健康リスクの増大は、企業単位でも同様であり、健康経営による従業員の休業や退職のリスク軽減・回避に加え、健康な従業員が増加することにより、一人ひとりのパフォーマンスが向上して企業の活力が増し、ひいては企業のイメージアップや採用における優位性向上も期待される。加えて、健康経営推進による企業活力増強という意味では、現役のみならず退職者に対する取り組みの充実も今後の検討課題になると思われる。

 自社の価値観や文化を共有した退職者は、自社に最も近い応援団であり、退職者組織の交流会程度のつながりに留まらず、貴重な人的資源として活用を検討すべきである。

 一例として、高齢者向け商品・サービスの企画開発への参画、その商品・サービスのPR、営業担当への登用など、退職者に期待される新しい役割を明示していくことは、退職者のセカンドライフ充実や健康維持への寄与のみならず、現役世代の健康管理意識の向上や、業務へのポジティブな取り組み姿勢の強化に繋がると考えられるからである。

 つまり、現役世代と退職者の双方にとってWin-Winになるような新たな仕掛けを考案し展開していくことも一つの健康経営になると考えられ、個人個人が毎日を健康に生きるための工夫や努力を習慣化させ、前向きに生きていこうとする気持ちの強さを向上させる仕組みの開発は、健康経営に求められる大きなポイントになるのではないだろうか。

 

100年に一度の自動車産業の大革命がスタート、北陸の電子部品業界が柔軟に対応していくことを期待
(2018年3・4合併号)

 今月号では、北陸の電子部品産業について、日本最大の製造業である自動車産業への関わり方や、EV化や自動運転などの自動車産業が直面する技術革新の動きに伴う影響や今後の方向性について調査した。

 本文にもあるとおり、各国政府や自動車メーカーの発表するEV化の方針が世界的に注目を集めている。内燃機関(エンジン)からモータ・電池へのパワートレインの変化や、部品点数の減少による製造工程の簡素化などを通じて、既存の産業構造を根底から覆す可能性があり、日本の自動車産業が競争力を失うのではと懸念されている。すり合わせ技術の結晶といわれる内燃機関車と異なり、構造が単純で、格段に参入障壁が低いEV車は、家電メーカーでもモジュール化した部品を組み合わせることで、作ることができるようになるからである。

 デジタル化で家電メーカーがデジタルカメラ市場に新規参入したような現象が、自動車業界でも出てくる可能性が高いとされ、現実に英ダイソンは、コードレス掃除機などで培ったノウハウを活かし2020年までにEVに参入すると発表している。

 また、家電量販最大手のヤマダ電機はEVを21世紀の新たな家電と位置づけ、低価格の小型EVの発売を目指すとともに、EVを省エネ住宅とセットで販売し、さらには、店舗での充電やカーシェアリングまでも計画しているようだ。

 このような変化がどれくらいのスピードで進んでいくのかについては、意見が分かれるところであり、特にEV化については、現状では電池のエネルギー密度、航続距離、充電時間、電池の劣化など問題が多く、これらを克服する革新的な次世代電池である「全固体電池」の開発、実用化が鍵を握るとも言われる。現在普及しているリチウムイオン電池よりも大容量で長寿命、安全性にも優れるとされており、日本が優位に開発を進めているというから、今後が楽しみであり、日本の自動車産業の世界におけるステータス確保にもつながると期待がかかっている。

 さらには、EV化に限らず、インターネットへの常時接続機能を具備し、ICT端末としての機能を有する「コネクテッドカー」のような先端技術や、「所有」から「利用」へと変化するユーザーの意識なども考え合わせると、レコードがCDに、ブラウン管テレビが液晶テレビに取って代わったように、変化の大きな潮流は変え難く、2050年頃に現在と比べて最も変貌している工業製品は自動車かもしれないとさえ思えてくる。

 クルマが人と対話しながら自律走行し、空も飛ぶ。子供の頃アニメで見た未来の世界が、いよいよ現実味を帯びてきた感がある。

 次の100年も自動車メーカーがモビリティ社会の主役を張れる保証はないとトヨタのトップも危機感をあらわにし、車会社を超え、人々の様々な移動を助けるモビリティーカンパニーへと変革する、すなわち、ハードウエアメーカーから、車を介してあらゆるサービスを提供するプラットフォーマーへ進化させる「決意」を表明している。

 100年に一度と言われる自動車産業の大革命はすでにスタートしており、製品の変化は産業構造の破壊と創造の加速に直結することを踏まえ、北陸の電子部品業界が自動車産業の未来モデルを想定した事業戦略を策定し、大きな変革のうねりに柔軟に対応していくことを期待したい。

 

働き方改革への取り組み 一 各企業で様々な取組がなされているが、拙速は禁物であり時間をかけても、従業員に経営の本気の姿勢を伝えたい(2018年2月号)

 半年に一度定例的に実施している「企業経営動向調査(BSI)」では、今回「働き方改革」への取り組み状況を北陸の各企業に尋ねてみた。

 働き方改革は安倍政権の肝煎り政策の一つであり、昨年3月「働き方改革実行計画」をまとめ、長時間労働の是正、非正規労働者と正社員の格差是正、高齢者の就労推進、柔軟な働き方への環境改善などを中心に法整備も徐々に進められているところである。

 北陸の企業の動向もBSI調査の結果から見ると、現在までは長時間労働の削減や有給休暇の取得促進など総労働時間の短縮に向けた取り組みが中心となっており、それも緒に就いたばかりのようだ。

 日本のビジネス社会では、残業は従業員の仕事への熱意を表す象徴として受け止められてきており、夜遅くまでオフィスに居残って、上司の前で仕事に取り組んでいる姿が高い評価を受けてきた傾向は否めない。

 しかしながら、かつてテレビのCMで「24時間戦えますか」とまで歌い上げられた、日本人のモーレツに働くことに対する価値観は、ここにきて「残業ゼロ」という正反対の方向へと大きな転換点を迎えている。

 人口が減少する日本では、一人ひとりが生き生きと働き、生産性を高めていくことが大きなうねりとなるなか、一方で「名ばかり管理職」、「サービス残業」、「風呂敷残業」などによる残業代未払いや大手広告代理店で発生した過労死、ネット通販などで急速に業務量が増大した宅配業界での残業急増等の問題が次々と発生、ここにきて残業見直しの世論が一気に高まってきたと言える。

 政府は、「過労死0」を目指して、違法な長時間労働を行う企業名を公表することを発表、また、経団連と労働組合総連合会は、昨年3月に時間外労働の上限規制を設ける労使合意に達した。

 とはいえ、現場からは、「短い労働時間で以前と同じ仕事をどうやってこなせばいいか」「自分の仕事の質をキープするため、手当はいらないから残業したい」などの声が聞かれるとともに、残業ゼロを達成したい上司とそれに疑問を抱く部下のそれぞれの立場での葛藤もあるようだ。極端な場合、「残業するな」と社員に早く帰ることを催促するだけでは、「ジタハラ(時短ハラスメント)」と言われかねない。

 また、従業員にとって残業代は給料の一部だという実態もある。一定の残業代を月々の家計収入に織り込み済みでは、簡単に残業の習慣をやめる訳にはいかないという事情もあり、収入面からの社員のモチベーションの低下も懸念されるところである。

 このような中、人材採用や教育にかかるコストを考えると、人材のリテンションが最優先課題と位置づけ、個人の状況に合わせて働き方を選択できる人事制度の抜本的見直しに着手した企業、残業代対応として、「ノー残業手当」を支給する企業や、残業が少ない従業員には賞与を増やす制度を創設する企業、フレックス制度や「どこでもWORK」と名付けた在宅勤務などの柔軟な働き方を拡充する動きが目立ち始めている。

 賃金体系や人事評価基準、業務の量、内容を複合的に見直し、従業員のモチベーションを高めることにより生産性を上げる工夫が求められている。「拙速」は禁物であり、成果が出るまで時間は要するであろうが、経営の取り組み姿勢が本気であると伝われば、従業員もそれに呼応するであろう。

 

ものづくり企業が産業構造変化への対応を実現するには、工場IoTにとどまらず経営者自らがIoT導入のリーダーシップを握ることが必要(2018年1月号)

 明けましておめでとうございます。

 本年も「北陸経済研究」のご愛読をよろしくお願い申し上げます。

 今月号では、新年恒例の企画として「新年度の北陸の経済見通し」と「新春トップ対談」をお届けした。

 新年の経済見通しでは、今年度の景気の回復基調は新年度も継続するとの基本認識のもと、各経済調査機関における2018年の全国の実質GDPは、1.0~1.2%程度の4年連続のプラス成長の予測が中心となっており、北陸についても、当研究所では2.4%とさらに高い見通しを試算している。

 11月に発足し、引き続き安定的に政策を推進できる基盤を確保した第4次安倍内閣は、この景況感の今後の維持、拡大を図りながら、経済再生を着実に進めていくことが大きな課題である。アベノミクスの約5年を振り返ると、景気回復と脱デフレという面では、相応の成果を上げたと評価できるものの、特に威力を発揮した金融政策の限界や弊害も明らかになってきている。

 また、経済主体の成長期待も持続的なものとするまでに至っておらず、中途半端で継続性を欠いた岩盤規制を打ち破る成長戦略の推進が今こそ重要であり、生産性向上に向けたオープンイノベーションや産業再編による新陳代謝の促進を期待したい。

 新春対談では、人が中心のものづくりがIoT時代にどのように変わるかを見据え、ITとものづくりが融合した日本的グローバルシステムの構築を目指す組織として、その存在感が増しているIVIの理事長である、西岡靖之法政大学教授にご登場願った。

 民間として生産性向上を中心とした成長戦略の実現に取り組む旗手と言えるIVIでは、ものづくりのデジタル化の波が押し寄せる中、日本のものづくりは、これまでのような閉ざされた空間の中で技術やノウハウを守るというやり方を、変えざるをえず、企業を超えた「つながる化」が促進されていく流れの中にあることを大前提として、その活動が展開されている。

 そして、つながるしくみとして実際に現場を変えていくプロセスの中心に据えるのがIoTであり、見える化・解析・対策のループによる現場カイゼンや現場力の強化を実践していくためのデジタルツールと位置付けしている。

 しかしながら、IoTは、モノから得られるデータから議論がスタートすることから、主役は現場の業務に精通した作業者、技術者、管理者とならざるをえないが、全体を見渡した視点がなければ、それぞれの現場は相互につながらず、生産性向上を目的とした、従来型の「カイゼン」努力の延長にすぎないものになるとの指摘もあるようだ。

 本来の目標とすべき、ものづくり企業の産業構造変化への対応を実現していこうとするならば、製造現場だけでは行えないことを各経営者は理解し、将来の自社のあるべき姿を示し、IoT導入のリーダーシップを自らが握ることが必要と思われる。

 言い換えれば、工場IoTにとどまらない、いわば経営改革IoTの実現に向け、経営者は、品質や顧客対応の柔軟さ、コスト力など自社の「付加価値」を高めるための方針を明示し、製造現場を始めとした各機能部門に何を求めるかを具体的に指示することが望まれているのではないだろうか。

 強まる人手不足感に対応すべく、省力化投資や情報化投資は「待ったなし」である。

 

これから本格化する高齢化社会に対応していくため、いわゆる元気増進産業の育成・発展がポイントの一つ
(2017年12月号)

 今月の調査では、北陸におけるライフサイエンス産業発展の可能性について報告している。今回は、特に医薬品や医療機器などの高度な専門性を求められる、いわゆる「コア領域」以外の、ヘルスケア分野なども含めた周辺分野を中心に考察を行った。

 医療・介護費の抑制が今後のわが国の大きな課題であることは論をまたないところであり、社会保障給付費としての医療費の2025年の推計値は54兆円と、2012年の35兆円の約1.5倍に、同様に介護費は20兆円と2.3倍に増大すると見込まれている。

 日本人の平均寿命は、戦後、生活環境の改善や、医学の進歩により急速に延び、厚労省調査では2016年は男女とも香港に続き2位と世界トップクラスの長寿国となっているが、一方で、平均寿命と健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間である健康寿命との差は拡大する傾向にあるとされている。

 「不健康な期間」の拡大は、生活の質の低下を招くとともに、社会保障給付費の増大にもつながることから、「体力向上・健康増進・予防」に対する取り組みは今後ますます強化されることが予想される。これに係る製品・サービスを提供する産業、いわゆる「元気増進産業」の育成・発展は、今後さらに本格化する高齢化社会に対応していくためのポイントの一つと言える。

 そして、「元気増進産業」の振興により、健康寿命の延伸による健保や自治体財政の悪化の緩和はもとより、元気なシニア層の増加による労働力人口の確保や、中小企業の雇用吸収力の強化、地域産業の新たなイメージ作りによる域外からのU/Iターン者の呼び込みや企業誘致などへのプラス効果など、地方創生にも大きく貢献していくことが期待されるところである。

 また、「経営コーナー」では、前月までの「M&A」に続き、税理士法人名南経営の寄稿による「中小企業における事業承継」の連載を開始、経営の一助となればと思う。

 経産省の調査によると、2025年には70歳を超える中小企業経営者が約245万人と、全中小企業の6割以上を占めることが予想されており、その約半数にあたる127万人が後継者未定と報じている。この数字は、生産性の高い黒字企業の廃業増加に直結するものであり、大廃業時代の到来による日本の産業基盤の劣化が懸念されている。

 加えて、黒字廃業を放置すれば、25年までの累計で約650万人の雇用と、約22兆円のGDPが減少する恐れがあると同省は試算、経済全体の効率低下を指摘している。

 一方、経営者年齢が上がるほど、投資意欲の低下やリスク回避性向が高まる傾向を示す統計結果があり、さらには、若年経営者へ交代した企業の方が利益率や売上高を向上させているとの報告もあり、事業承継は成長の観点からも重要な課題と言える。

 本文にもあるとおり、円滑な事業承継には十分な準備期間が必要であるが、それとともに、外部の支援機関を有効に活用することも重要なポイントとなる。国も今年度から2021年までの5年間を事業承継支援の集中実施期間と位置づけ、各地に商工会議所や金融機関等を中心とした「事業承継支援ネットワーク」を設置、支援強化を図るとしており、有効に機能することを願う。

 個々の企業の事業価値(付加価値の源泉)が確実に次世代へと引き継がれ、持続可能な社会を実現することが急務となっている。

 

今回の実感のない景気回復について、エコノミストのネーミングを紹介-空回り景気、べたなぎ景気、目詰まり景気
(2017年11月号)

 4~6月期の実質GDP成長率改定値は前期比0.6%増となり、速報値の1.0%増から設備投資の伸びが引き下げられたことを主因に大きく下方修正されたが、11年ぶりに6四半期連続のプラス成長を維持しており、緩やかな回復基調が継いているようだ。

 北陸域内についても、今月の調査にあるように、昨年後半から4四半期連続のプラス成長を維持し、その成長率も全国GDP以上を記録している。

 また、政府は2012年12月から景気拡大が続いており、57カ月に及んだ戦後2位の景気拡張期間である「いざなぎ景気」(1965年11月~70年7月)を9月には抜いた可能性が高いと発表している。

 しかしながら、今回の景気回復については、力強さに欠け実感がないという声が、景気ウオッチャー調査や、各種マスコミ報道から多く聞かれている。ちなみに、いざなぎ景気時の数値と比較してみると、1年当たりの実質GDPの伸びは11.5%と1.3%、個人消費の伸びは9.6%と0.4%、実質賃金の伸びは8.2%とマイナス0.6%といずれもいざなぎ景気の数値が大きく上回っている。

 特に、実質GDPの期間中の増加率を見ると、今回は5.4%の増加にとどまっており、いざなぎ景気時の60%超の伸びとは対照的となっている。まさに、日本の国民所得が大きく伸びて、自動車、カラーテレビ、クーラーの「新三種の神器」を中心に個人消費が大いに盛り上がり、「一億総中流」という意識が定着するとともに、日本が世界第2位の経済大国に躍り出るようになった期間の勢いとは比べるべくもないと言える。

 マラソンに例えると、短距離走のようなスピードで走る若いアスリートが息切れしても、ゆっくり走る高齢者が息切れせずにまだ走る余力を残しているような状態と言えるのではないだろうか。

 さらに、このような景気拡大のレベル感の格差に加えて、今回の景気回復期間については、14年4月の消費税増税後から昨年5月の消費税再引き上げ延期決定までの期間は、生産や雇用など9つの経済指標による景気動向指数が横ばいまたは若干下向きになっており、景気の「山」と「谷」の判断が難しくなっていたことも景気拡大の実感を得にくくしたといえるのであろう。

 各エコノミストが今回の景気回復について、日本経済の課題を挙げていろいろなネーミングをしているので紹介したい。

「空回り景気」…企業が利益を上げ、賃上げを行い、個人消費の拡大につながる経済の好循環をアベノミクスは目指しているが、企業が利益をため込んでしまっているのが実態。目指す好循環が始まらず、「空回り」している。

 「べたなぎ景気」…経済成長率が低く、海に風が吹かず全く波が立たない(べたなぎ)ような緩慢な成長。日本経済の実力である潜在成長率が0%に近く、これを引き上げる構造改革の取り組みが不十分。

 「目詰まり景気」…年金など社会保障制度の将来不安から、賃金が上がっても消費せずに貯蓄に回ってしまう。公共投資を行っても人手不足で建設が進まない。経済がいろんなところで目詰まりを起こしている。

 いずれも言い得て妙のネーミングであると思われるが、ここに指摘された諸課題の解決に向けて、今回突然誕生することになった新政権の真摯な取り組みにより、実感の伴う景気回復の実現を願うばかりである。

 

民泊や配車サービスなどのシェアリングエコノミーが本格化するにつれ、一方で、このような新しい経済活動の効果をはかる統計改革も必要(2017年9・10合併号)

 住宅に旅行者を有償で泊める民泊を解禁する、いわゆる民泊法がこの6月に成立し、日本でも「シェアリングエコノミー」の仕組み作りがようやく前進することになった。

 このタイミングを捉え、今月号の調査では民泊の影響や今後の課題、北陸において予想される展開などを中心に紹介している。

 民泊については、これまで正面から定めた法律がなく、グレーゾーンとして見過ごされてきた行為も多く、近隣住民とのトラブル発生や治安悪化が懸念されていた。

 しかし、今後は運営者、仲介事業者などが守るべきルールが、この民泊新法の中にはっきり定められたことから、そのルールに反した者に対し、行政当局が厳しく対応することにより、法律の実効性を確保して、合法的な民泊従事者の確実な増加と、各種トラブルの根源となっているヤミ民泊の撲滅を推進していかなければならない。

 そして、新たな宿泊スタイルである民泊が、今までは考えられなかった旅や宿泊スタイルの実現を可能にするとともに、本文でも述べているように、空き家問題、地方創生など日本の社会課題の解決にも一定の役割を果たすことが期待される。

 民泊やウーバー・テクノロジーズが展開する配車サービスに代表される「シェアリングエコノミー」については、矢野経済研究所の調査によると、その市場規模は2015年度は285億円であったが、東京五輪に向けた民泊の需要拡大を主因に、20年度には600億円市場に拡大すると見られている。

 このビジネスモデルは、住宅、運搬、物品、技術、金融などのカテゴリーに分類されるサービスが利用者に提供され、利用者がその料金を支払い、さらにマッチングを行う仲介事業者に、提供者・利用者が一定の手数料を支払うという形が一般的である。

 レンタカーや貸し駐車場など類似のレンタル業は、企業が中心となって顧客にモノ・サービスを提供するビジネスモデルが主であるが、「シェアリングエコノミー」では多数の提供者と多数の消費者が、インターネット上で瞬時にマッチングされ、柔軟な取引が行える点が異なる特徴である。

 このような新しいビジネスモデルに基づく経済活動の効果を、現状のGDP統計で正確に把握できるかとの懸念がある。

 例えば、「シェアリングエコノミー」では一つのモノを複数の人の間で何度も共有するため、新品のモノはこれまでよりも売れなくなる可能性があり、個人消費の縮小につながり、GDPにはマイナス要因となる。

 一方で個人間での取引が増加することから、支出側(利用者)は家計調査などで把握可能だが、生産者(提供者)の把握がしづらく、仲介手数料を基にサービスの価格を推計するなどの検討が必要になる。

 新品のモノが売れなくなることに加え、シェアリングビジネスによって生まれた新たな価値を計測しきれないとすれば、GDPにはマイナスの影響を与えるかもしれない。

 また、シェアリングビジネスにより新たなニーズが生まれ、周辺ビジネスが増えれば、GDPにプラスの影響を与えるという側面もあり、さらには、政府の成長戦略である「未来投資戦略2017」にも重点施策として位置づけられていることからも、従来の生産・消費をベースとした経済成長の測り方を見直す必要がありそうだ。

 適切な政策立案・遂行のためにも、実態を正確に把握できる統計改革が欠かせない。

 

買い物難民の増加が課題に-移動スーパーなどの対策が高齢者ビジネスとして定着し成熟していくことを期待
(2017年8月号)

 今月号の「チャレンジ」では、住んでいる地域で日常の買い物をしたり、生活に必要なサービスを受けたりするのに困難を感じる、いわゆる「買い物難民」に対し移動販売サービスを展開する企業を取り上げた。

 高齢者を中心に最寄りの食料品店まで500m以上離れ、運転免許を保有しない人と定義される「買い物難民」は、経済産業省によると全国で約700万人も存在すると推計され、しかも、この4年ほどで100万人増加したと指摘されている。また、農林水産省が昨年11~12月に全国の1741市区町村を対象に実施したアンケート調査によると、8割以上の自治体が食料品購入に困難を感じる消費者が増加し、何らかの対策が必要と考えているとの結果が示されている。

 この「買い物難民」については、農村部など過疎化が進んだ地域の問題のみならず、都市部においても高齢化の進行、人口減少や郊外型ショッピングモールの進出による地元スーパーや商店の撤退・衰退などにより、毎日の買い物に苦労する地域が拡大しているとされ、このような地域を「フードデザート」(食の砂漠地帯)と呼ぶらしい。

 この地域に居住する高齢者の食生活を調査した結果によると、十分な栄養を摂取できていないと推測される世帯が全体の49%に及び、単身・夫婦2人で自家用車を利用しない世帯に限定すると、同値は60%を上回ったと報告されており、この低栄養問題が医療費や介護費の増加に直結していくことが懸念されている。 マイカーに乗ってドライブがてら郊外のショッピングセンターなどへ出かけ、大量の買い物をすることが当たり前になっている筆者のような人種にとっては、買い物に苦労し、ましてや必要な栄養も十分に取れないという状況に陥ることなど、これまで考えてもみなかった。しかし、あらためて徒歩で近隣のスーパーへ行くことを想定すると、距離は1㎞に満たないものの、往復の所要時間や帰りの荷物の運搬など、その大変さは想像に難くない。

 車の利用も高齢者の運転に対する規制が強化されつつあり、いつまでも可能なわけではないことから、近い将来、我が身にも確実に訪れるであろう艱難だと覚悟させられる。

 「買い物難民」の解決に向けた取り組みは全国で始まっているが、その内容は「移動販売」のほか、ネットスーパーなどによる「宅配サービス」、コミュニティバスや乗り合いタクシー等の「移動手段の提供」、撤退した店舗跡地など至便な場所に、住民が共同で出資し、店舗を運営する「便利な店舗の再生」の4パターンに集約されるようだ。

 とりわけ、本号で紹介した「とくし丸」については、全国36都道府県で移動販売サービスを展開し、稼働台数も210台まで拡大している。自分の目で見て、手に取って選ぶことができる点に潜在需要は大きいと思われ、今後の高齢者増もあいまって1000台程度まで伸びていくと予想している。

 加えて、販売員が地域住民の軒先まで直接訪問することから、日常業務がそのまま高齢者の見守り活動につながることも期待され、高齢化社会でその果たす役割はますます拡大していくと思われる。

 都市規模の凝縮によるコンパクトシティの流れの中、店舗数の減少と高齢化のさらなる進行は不可避であり、重要性が増す「買い物難民」対策が高齢者ビジネスとして定着し、成熟していくことを期待したい。

 

日本型M&Aの本質-企業の価値は人であり、オーナーが代わっても社員が今まで以上の力を発揮できるようにすること(2017年7月号)

 今月号から4回に渡り経営コーナーとして、企業の事業承継や成長戦略の手段として注目されているM&Aについて、㈱日本M&Aセンターから寄稿いただくこととなった。当センターは1991年の創業以来、3000件以上の支援実績を有する業界No.1企業であり、その豊富な知識やノウハウの提供により、会員企業の事業戦略における選択肢にM&Aが組み込まれることを期待したい。

 オーナー経営者の平均年齢が現在66歳であり、その3分の2は後継者がいないという現状が本文でも指摘されているが、この状況が続けばオーナーの平均年齢が後期高齢者となる年齢を超える約10年後には、多数の企業の存続が危ぶまれる状況になる。これがM&Aの必要性をクローズアップしている最大の理由である。

 このような現状に対処すべく、当センターがM&Aの交渉の際に意識してきたことは、「日本型M&A」の形を大切にしてきたということであり、それが実績に繋がった大きな要因とされている。M&Aといえば、買収金額や事業シナジーなどが交渉内容の中心になるイメージが強いが、日本の中小企業の場合は、オーナーや従業員の思いをしっかりと汲み上げることが重要である。自社の譲渡を決断するオーナーは「自分の娘を嫁がせる以上の思い」だとよく言われる。自分が大切に育てた会社を託すからこそ法務や財務だけでなく、オーナーの意志や情熱をいかに引き継ぐか、そして残る社員のモチベーションやその家族のことまで考えることがポイントとなる。

 会社の価値はあくまで人であって、オーナーが代わっても社員が今まで以上のパフォーマンスを発揮できるようにすることが「日本型M&A」の本質と言えるのではないだろうか。

 また、調査では「ひとり親世帯」の移住推進について提言を行った。全国に先駆けて取り組んだ「浜田モデル」を参考に、全国の各自治体が相次いで移住推進策を発表、実施しており、どこへ移住しようかと迷うくらいの勢いだが、仕事と子育ての両立支援はもちろん、母子家庭における高い貧困率が減少していくように、さらなる有効かつ大胆な施策の実施が望まれる。

 一方、同じ移住でも急増する大都市圏の高齢者への対応を主眼に、アクティブシニア誘致による地方圏活性化の推進も図りたいとする「生涯活躍のまち(日本版CCRC)」構想についても、国からの多額の交付金の後押しもあることから、全国260以上の自治体が推進する意向を示している。

 問題点もいろいろ指摘されているようだが、北陸では、2014年にオープンした「シェア金沢」が全国から注目されている。長年障害児のケアに携わってきた社会福祉法人「佛子園」が運営する施設で、高齢者のみならず、障害者、学生約90名が助け合って暮らし、近隣の住民も巻き込みながらの「ごちゃまぜ」の街づくりがコンセプトとなっている。

 この理念を拡大すれば、「生涯活躍のまち」の構成員として「ひとり親世帯」が加わることもできるはずである。そうすれば、収入や住まいの確保が容易になり、介護に限定されない仕事の選択も可能になると期待される。

 いずれにせよ、移住者が多くの人と交わり、互いが刺激を受けながら支え合う関係を築ける環境を作ることが、心身ともに健康で自立した生活を維持し、地域全体が活力を帯びていくことに繋がるはずである。

 

日本酒の消費低迷に歯止めをかけるには-特に女性の潜在的な興味・嗜好に注目してはどうか。日本酒と日本料理の多彩な食文化を広げていきたい。(2017年6月号)

 日本酒は古来より祭礼や神事だけでなく、宴会の席などで親しまれてきた日本人にとって身近な嗜好品であるが、今月の調査にあるとおり、消費量減少にどうやって歯止めをかけるかが課題となっている。

 ビールや焼酎なども減少傾向にあるが、ビール類の出荷量は日本酒の10倍であり、焼酎も一時の焼酎ブームに乗って出荷量で日本酒を逆転して以来、今も順序は変わっていない。日本酒はそのポテンシャルから考えると「低迷しすぎ」の感がある。

 日本酒市場を再興させるためには、日本酒の存在・価値を認める人を増やす必要があり、美味しい日本酒があることを多くの人に知ってもらうことが重要であろう。

 20歳から69歳の首都圏在住男女1000名を対象にした日本酒に対する意識調査によると、半数は「日本酒は好き」と回答しており、年代別で男性は年代が高いほど日本酒好きの比率が高まるが、女性はトップの60代の52%に次いで、意外にも20代の47%が好きと答える結果になっている。

 また、「今後、日本酒を飲んでみたいか」という質問に対しては、20代の女性が40%で最も高く、次いで30代女性の28%が続いた一方で、20代男性は14%にとどまっていることから、若い女性を中心に日本酒に興味を持つ人が増えている様子がわかる。

 女性の社会進出の影響や女子会の流行などによって、女性がお酒を飲む機会は増加しており、今後日本酒需要を盛り上げていくうえで女性をどのように取り込むかは、輸出の拡大と並んで大きなポイントの一つになるのかもしれない。

 女性はどのような日本酒を飲みたいと思っているのか、これもあるアンケート調査によると、「アルコールが強くない」、「フルーティ」、「見た目が可愛い」、「少量で手に取りやすい」、「二日酔いしない」などが上げられている。逆に言えば、「度数が強い」、「味が辛い」、「年配のイメージ」、「悪酔いしそう」などの理由で日本酒が敬遠されているということになる。

 近年、女性向けの日本酒としてスパークリング清酒や味わいがフルーティな商品などが登場しているのも、このようなニーズに応えるためといえ、他にもアルコール度数7~8度と通常の半分程度の低アルコール商品、内容量100mlと飲みきりサイズの商品、カワイイもの好きである女性向けに容器の形状やパッケージングにこだわり、インテリアにもなるお洒落な商品、ヒアルロン酸やコラーゲンなどの美容成分を配合した商品等徐々にではあるが、特徴的な取り組みも出てきているようだ。

 また、女性に対する日本酒のアピールの仕方も今後さらに工夫が必要と思われる。

 老化防止や潤いを保つといった美容効果、ガンの抑制(アミノ酸がガン増殖を抑制)や心臓病・糖尿病の予防などの健康効果、筋肉のこりをほぐし、収縮した血管の働きをなめらかにするリラックス効果など、日本酒は女性に嬉しいことがたくさんあることを広く啓蒙すべきである。

 さらには、ワイン文化に見られるようなファッション性も女性にとっては重要な要素と思われ、日本酒と日本料理、そしてそこに用いられる食器や酒器などが一体となって醸し出す季節感や繊細なイメージをもっとPRすべきではないだろうか。

 ワインに比べて多彩な食文化を許容する日本酒文化を再認識し広げたいものである。

 

消費低迷に歯止めをかけるポイント-実質賃金の改善のため、大企業に続く中堅・中小企業の賃上げに期待。
さらには「働き方改革」を含む、生産性向上が必要(2017年5月号)

 好調な海外経済が波及し、国内景気が緩やかに回復している。2016年10~12月期のGDPは実質で前期比0.3%増、年率換算で1.2%増だったが、その内容を見ると設備投資と輸出が伸びるなど企業部門には明るさが見えるものの、個人消費は相変わらず力強さを欠いている。 家計まではもう一歩回復の恩恵が届いていないようであり、2月の景気ウオッチャー調査でも、街角の景気実感を示す現状判断指数は前月より1.2ポイント低下し48.6ポイントとなり、2カ月連続で悪化している。特に百貨店の衣料品販売が低調で、小売りの落ち込みが全体の水準を押し下げている。

 初めて実施された「プレミアムフライデー」の反応も今一つで、消費者の節約志向を指摘する声が多く聞かれている。

 原油価格の上昇や昨年末以降の円安などにより消費者物価も前年比プラスに転じるなど、さらに家計の実質購買力の下押し圧力が高まると予想される中、消費低迷に歯止めをかける切り札となる実質賃金の改善を目指す春闘がヤマ場を迎えているが、先行きの不透明感を主因とした企業側の慎重姿勢から、賃上げを取り巻く環境は厳しいようだ。

 今年も政府からの賃上げ要請があるなど「官製春闘」の様相を呈しており、4年連続でベアが実現しているが、相場をけん引する自動車や電機大手の回答状況を昨年実績と比較すると、今年の賃上げ率は昨年の2.14%を下回ると予想され、2015年の2.38%をピークに2年連続の伸び率低下は避けられない見込みである。

 これから本格化する中堅・中小企業の労使交渉への影響も懸念されるところであり、拡大が続く企業規模による賃金格差にどれだけ歯止めがかけられるかに注目が集まる。

 デフレ脱却に向けた底上げの春闘であり、かつてのインフレ時代の春闘と違い、先頭車両(大企業)だけが動いてもそれに続く車両(中堅・中小企業)が動かなければ、経済全体が動かず、これまでの底上げの流れを止めてはならないと言える。

 加えて、この度発表の日銀短観では、雇用人員判断DIがマイナス25と人手不足感は25年ぶりの高い水準となり、また、2月の完全失業率は2.8%と1994年以来約22年ぶりの低水準を示し完全雇用といわれる状況に近く、有効求人倍率も1.43倍となるなど、深刻な人手不足解消には、賃金水準が大きなポイントにならざるを得ない。

 足元の企業の収益環境は改善しており、経常利益は過去最高を記録し売上高比率も7%超まで上昇、内部留保も375兆円と、こちらも過去最高であることから、賃上げの原資は十分蓄積されていると見られる。

 にもかかわらず、バブル期以前のレベルにまで低下している労働分配率は改善が期待できる状況にはなさそうである。

 日本の低成長と社会保障費の負担増など国民の将来不安がクロスする中で、恒常的な人件費増につながるベアへの消極姿勢は経営者に定着してしまっているようだが、労働力の確保は各企業の存続に直結する喫緊の課題といえる。将来を見据えた人事戦略が今こそ必要とされており、長期的な視点に立って、人材を確保・育成するためのコストは惜しまず、積極的な投資を期待したい。その中には、当然勤務時間・形態や非正規社員の処遇改善などの働き方改革も含まれ、実現に向けて各企業は大幅な生産性向上への取り組みも求められている。

 

滞在環境の整備、新たな感動を呼ぶ多様な観光資源の発掘、ホスピタリティーの向上がインバウンド振興のカギ(2017年3・4合併号)

 2月の声を聞くとお正月気分もすっかり抜けた感があるが、本欄を執筆している現在、中国では旧暦のお正月となる春節の大型連休の真っ只中である。

 休暇期間中の海外旅行客数は、中国の大手予約サイトによると約600万人と前年並みに留まる見通しとされているようだが、旅行先人気ではタイに次いで日本が2位となっている。昨年637万人と前年比約28%増を記録し、国別訪日客数トップの勢いは本年も継続することが予想されるが、今月の調査の中でも指摘しているように、中国人客数がまだまだ少ない北陸地域にとっては、その拡大に期待も高まるところである。

 また、昨年の訪日外国人客数2404万人、その消費額3兆7476億円はともに過去最高を記録したと報じられており、貿易や人、資本の動きを自由化し、海外とのやり取りを活発化することで経済のトレンドを作ろうとする安倍内閣のグローバル戦略の一つの柱は着実に成果を上げてきているようだ。

 一方で、2020年に客数で4000万人、消費額は8兆円と、1人当たり20万円使ってもらおうとする大きな政府目標が掲げられているが、爆買いブームが沈静化し、1人当たりの消費額が15万円台と減少傾向の中では、買い物だけで訪日客の消費を拡大し、目標を達成するのは厳しい状況である。

 マスコミ報道によると、2017年のインバウンドは「モノ」から体験重視の「コト」消費に需要が変化しつつあり、日本でしか体験できないサービスやストーリーへのこだわり、いわば「コトの付加価値」が重要になると予測、滞在日数の長期化への対応や体験型ツアーの企画開発などが必要とされている。

 観光庁の「訪日外国人消費動向調査」でも外国人が何を目的にリピートしたいかを調査した結果、温泉入浴、スキー・スノーボード、舞台鑑賞、スポーツ(大相撲)観戦、日本の歴史・伝統文化体験などの項目が上位となっており、体験型ツアーの人気の高まりがうかがわれる。

 日常何気なく見ているものでも観光資源になるものがあり、一度日本を訪れた外国人は更なる「感動」を与えてくれる観光資源を見つけ、その期待感からリピーターとなってくれる。

 そして、この体験型ツアーを支える役割の一端を担うのが「通訳案内士」であり、時にはともに2週間も全国を旅してまわることもあることから、求められる資質や技量のレベルも高まりつつあるという。

 「通訳案内士」は観光案内、添乗員、通訳の3つの機能を有する国家資格であるが、有資格者は現在1.9万人、実働者はその4分の1と少ない。また、英語登録者が圧倒的に多く、中国語、韓国語等は少なく、需要に応じきれないというミスマッチも生じており、「通訳案内士」の規制緩和を進めるための法改正案が今国会に提出される。

 旅行客が日本滞在中最も長い時間接する日本人であり、「これが日本人」との印象を与えかねないことから、日本を代表する観光資源といっても過言でないかもしれない。

 観光庁の「Japan. Endless Discovery.」(尽きることのない感動に出会える国、日本)というキャッチフレーズのとおり、インバウンドの滞在環境を整え、新たな感動を提供できるよう多様な観光資源を開発していくとともに、ホスピタリティーの向上が欠かせない。

 

現役世代の、将来のリスクに対する真剣な取組により社会を覆う不安感を払拭することが急務(2017年2月号)

 個人消費が伸び悩んでいるといわれる。

 今月号のQE推計の中でも、平成27年4~6月期以降、家計最終消費支出の伸び率が雇用者報酬の伸び率を下回る状態が続いているとされている。消費のベースとなる所得環境は着実に改善しており、失業率は3.0%まで低下し、ほぼ完全雇用状態と言える。有効求人倍率も1.4倍とバブル期のピークであった1.58倍に近づいている。賃金も名目雇用者報酬で見ると、前年比2%程度の伸びが続き、実質賃金は上昇傾向にある。

 にもかかわらず、代表的指標である家計調査で実質消費支出を見ると、平成26(2014)年4月の消費税増税後、約2年半にわたり伸び悩みの状況が続いている。一方で平均消費性向との差となる貯蓄率は、10月時点で23%を超え、リーマン・ショック後のピークを超える水準まで急ピッチで高まっている。

 この背景には、国民所得に対する租税・社会保障費の負担割合を示す「国民負担率」の増加があるといわれている。総務省の調査では勤労者世帯が払う年金や医療、介護などの社会保険料は平均月約5万1000円で、10年前より9000円近く増加、実収入に対する割合も9%から11%へと上昇している。

 国民はこうした傾向が今後も続くという漠たる不安を抱き、所得が増えても貯蓄に回している可能性が高いと指摘されている。

 高齢化が進む中、社会保障への将来不安の高まりから、大きな買い物をすることに慎重になり、日本経済が世代を超えて必要以上に委縮してしまっている状態と言える。 このほど閣議決定された2017年度予算案では、社会保障費の自然増が6400億円のところ、医療で950億円、介護で450億円圧縮し、5000億円の増加にとどめ、財政健全化目標を2年連続で達成した形となっているが、抑制目標のつじつま合わせに終始した感は否めず、総額は初めて32兆円を突破し、予算総額の3分の1を占めている。

 また、各社会保険制度の財源における税の割合は、例えば厚生年金保険で17%、国民健康保険で41%、介護保険で51%を占めるとされ、今後、さらに少子高齢化が進行していく過程でこれらの比率はさらに増大していくことは避けられない状況であり、予想される消費税増税も砂漠に水をまくようなことになるのではと懸念される。 さらに、社会保障給付費全体では、2014年の110兆円が、団塊の世代が後期高齢者となる2025年には151兆円と約4割も増加すると厚労省は試算、特に医療費の膨張が問題とされている。その顕著な例として、今年の4月以降「オプジーボ」という高額のがん免疫療法薬が、国民皆保険制度を破壊するなどとして議論を巻き起こした。

 その結果、2年に1度の薬価見直しの原則を変更し、異例となる超高額薬価格の期中見直しを行い、さらには毎年改定の方針も決めるなどの対応がとられた。しかしながら、あくまで対症療法的な措置といえ、医療の高度化と高齢化の進行という根本的な要因に対する本質的な議論が必要なのであり、現役世代、高齢者世代、そして国庫とそれぞれがどのような負担をし、どのような制度を作り上げるのかを明確にしなければならない。さもなければ「75歳以上は延命治療を控えるべき」などという極端な声が大きくなっていく可能性もある。

 現役世代が、将来のリスクに対し、いかに真剣に取り組むかが問われており、社会を覆う不安感の払拭が急務である。

 

地球にやさしい水素社会の実現に向けた動きが活発となるこの1年(2017年1月号)

 明けましておめでとうございます。

 本年も「北陸経済研究」のご愛読をよろしくお願い申し上げます。

 新年号ということで、昨年に引き続き、当所理事長と著名なエコノミストとの新春対談を企画、本年は長年東京大学教授を務められた岩井克人氏に登場願ったが、インタビュー実施直後に岩井氏が今年度の文化功労者に選出されるという朗報が届いた。

 不均衝動学や貨幣論の研究、さらには法人論や信任論など従来の経済学の枠組みを超えた新しい理論を提唱するなど卓越した業績を挙げてこられたことが結実したものであり、あらためて敬意を表するとともに、心からお祝い申し上げます。

 さて、大方の予想を覆して、ドナルド・トランプ氏が米国大統領になることが決まったが、選挙戦中に繰り返された過激な発言が本当に実行されるのか疑心暗鬼に多くの人が陥り、「トランプショック」という表現まで使われているようだ。

 しかしながら、悲観論の蔓延はさほどでもなく、好意的な解釈も続出しており、市場は金融規制強化の見直し、個人所得税や法人税率の大幅引き下げ、巨額のインフラ投資などの期待感から日経平均株価は選挙直後の落ち込みから一転し1000円以上も反発した。この状況は平成24(2012)年12月に第2次安倍政権が発足した時に、まだ何もしていないのに、アナウンスメント効果で円安・株高が進んだことのデジャブのようである。

 トランプ氏が意外にも老獪な現実主義者だと思い込み、まだまだ不透明なその政治手腕や政策に過度の期待を抱くのは時期尚早であり、大統領就任後の米国経済の動きや、それによる日本への影響も読みづらい状況であることから、各経済機関の発表する新年の経済見通しについては、今後、大きく変化することを余儀なくされることもあろう。

 また、トランプ氏は環境面でも地球温暖化対策の新枠組みである「パリ協定」について、米国が締結して間もないにもかかわらずキャンセルすると明言、エネルギー政策として自国の化石燃料を最大限に活用するとして物議を醸しているが、今後の米国の環境政策が大きく後退することが懸念される。

 一方、日本では今月の「チャレンジ」で取り上げたように、地球に優しい「水素社会」の実現を地方からも進めていこうとする動きが活発化してきている。

 これまで水素事業は工業用の需要が主であったが、燃料電池が実用化されて以降、徐々にその用途が拡大され、平成26(2014)年に世界初の量産型燃料電池自動車(FCV)が登場したことにより新たなステージに立ったといえる。経済産業省の「水素・燃料電池戦略ロードマップ」によると、FCVの普及目標は、2020年までに4万台、2025年までに20万台、2030年までに80万台程度と設定されている。この目標達成に不可欠なインフラである水素ステーションも2020年に160カ所、2025年までに320カ所程度の建設を予定、両者を同時並行して進めていく必要があるとされている。

 水素エネルギーは、20~30年先には二酸化炭素削減の有力な手段になると考えられるが、事業化の観点からは徒競走のスタートラインに立って周りを見ている状態と言え、先導役が必要であり、「富山水素エネルギー導入促進協議会」がこの地域においてその役割を果たすことを期待するとともに、各自治体の強力な支援もお願いしたい。

 

有機的な地域クラスターの形成、その持てる固有技術の相互活用がビジネス拡大につながる(2016年12月号)

 今月号の企業紹介コーナーでは、富山、石川両県で確固たる地位を占めているものづくりの中堅企業2社を紹介している。

 取材する中で、この両社には共通点も多々見られており、そこに北陸のものづくり産業の強さのゆえんを改めて印象付けられた感がある。

 精密部品などの製造に要求される精度の高い金型の製作能力、部品から製品化までの加工・組立の一貫生産体制の確立、他社との差別化を図るために加工機械などの自社開発を行う伝統を有していることなど、なるほどとうならせられることが多かった。

 また、両社とも創業当初の主力商品を発展、進化させていく中で、モータリゼーションの流れに乗り、現在の主力業務分野が自動車部品となっているが、この分野における次の時代を見据えた開発・投資は着実に実施するのみならず、会社全体の方向性や展望もしっかり確立されているようだ。

 そして、その根底には自社の基幹となる技術、すなわち「精密金型製造」「冷間圧造」にこれまで以上に磨きをかけるといった姿勢が徹底されていることは言うまでもない。

 さらには、今月の調査で6月に東京ビッグサイトで開催された「日本ものづくりワールド2016」に出展した北陸の企業の主な技術や製品を紹介している。

 本年は、富山県では一般社団法人富山県機電工業会や富山県などの支援を得ながら「富山県コーナー」として統一ブースを設置し企業連携にて対応、福井県では鯖江市の代名詞となっている眼鏡枠に使用されるチタンの加工を行う企業で構成された「チタンクリエーター福井」のメンバーが共同で出展するなど、参加方法にも工夫が見られ、その意気込みが窺えた。

 それにしても、狭い北陸地域の中に独特の技術や製品、そして高いシェアを有する企業が多数存在しているものだと再認識させられるが、一方でこの各社の個性や特異性あふれる技術、能力が地域の中で相互に認知されていないとの声を耳にする。

 その一例として、富山県では地元大手機械メーカーの県内企業からの部品調達や下請加工などの依存率がせいぜい6割程度に留まる(製品によっては2割程度のものもある)という現実も突きつけられている。

 1社で全加工を任せられる企業が少なく、数社に分散して発注すると納期や品質管理が大きな課題となる、設備能力が不足しているなど原因はいろいろと言われているが、根本には各社の持てる技術の「見える化」が図られていないとの指摘がある。

 富山県では、このような状況を克服し、域内ものづくり企業の受注増と技術力や競争力の向上を図るため(一社)富山県機電工業会が中心となって、県内企業間連携を強化し、域内サプライチェーンの結合を図る「富山県ものづくり株式会社」を目指そうとする試みが検討されている。

 具体的には、県内中小企業の固有技術を結集させるビジネスマッチングの仕組み作りや、同業他社との協調領域を明確化させたうえで情報共有を進めることにより、量産化対応を図ることなどが挙げられているようである。この動きを北陸地域全体に広げ、得意技術を持った企業で有機的に地域クラスターを形成し、その持てる固有技術を相互に有効に提供し、磨き上げることにより、ビジネスのさらなる拡大につなげるとともに、独自分野のレベルアップにも並行して取り組むことが期待される。

 

北陸三県でも企業の垣根を越えてIoT導入に向けた取組みの活発化が期待される(2016年11月号)

 「インダストリー4.0」、「IoT」というキーワードが、製造業を中心にトップマネジメントの間で大きな関心事となり、新聞や雑誌などでもその記事を見ない日はないと言っても過言ではない。

 「IoT」は「製品や設備のつくり方」「使われ方」「位置や移動」といった情報などモノが生み出す膨大なデータを、各種センサーの発達やコンピューターのパワーアップなどにより、迅速かつ正確に認識・理解・判断できるようになり、そうしたデータの分析結果をフィードバックして生産効率の追求や新たな価値を創造する動きである。

 とはいえ、こうした動きはまだ始まったばかりであり、多くの中小企業からは「具体的な取り組みはこれから」「情報収集の段階」「これまでのITと何が違うのか」といった声も多く聞かれることから、今月号から「やさしいIoT」と題し、IoTを中心とした新しい産業界の潮流に関する連載を開始したので、ご参考になればと思う。

 このものづくりと情報通信技術(ICT)の融合による新たなサービス化の流れが世界的に加速する中で、国内でも総務省や経済産業省などが主導する形で「IoT推進コンソーシアム」が設立された。

 そしてその傘下に各地で(17県11市町村)国からの補助金や指導者の派遣などの支援を受けながらIoTの導入を促進する「IoT推進ラボ」を選定、北陸3県でも各県で組織化されている。

 富山県では「IoTビジネス革新研究会」と銘打ち、富山型モデルの構築に向け始動しており、このように産官学が連携する形で、企業の垣根を越えてものづくりが相互につながるための仕組みを構築する動きがいよいよ活発化してくると期待される。

 ただ、現時点では課題も多く、その筆頭が標準化の問題とされる。「モノとモノ」、「コトとコト」がつながるためには企業を超えた共通のルールや決め事が必要となり、それぞれに標準化が要求される。

 日本の多くの製造業は、これまで蓄積してきた膨大な技術やノウハウが社外流出することによる競争力喪失を懸念して、標準化やつながる仕組みにはおおむね閉鎖的であった。セキュリティーに関する課題も多くが解決されずに残されている。

 このような課題に対応すべく、「ゆるやかな標準」というコンセプトのもとで、各企業で共通にすべき部分である協調領域と競争領域の境界を再定義し、協調領域においては大胆にオープン化し、相互に連携するための参考モデルの構築を目指す産学連携の「インダストリアル・バリューチェーン・イニシアティブ(IVI)」(理事長 西岡靖之法政大学教授)が昨年6月に発足、今年社団法人化した。トヨタ自動車やパナソニックをはじめ、150社を超える企業が参加し、日本発の「つながる工場」の仕組みづくりに向けての活動を本格化させている。

 IVIは地方の中小企業への支援として、IoT化のための実習を中心としたセミナーも各地で展開しており、富山でもこの度当研究所と連携して北陸3県の企業を対象に実施し、地元企業の関心も非常に高いと感じさせられる参加状況となった。内容や参加者の感想などについては、別途本誌にてお伝えするとともに、今後各企業が垣根を越えて課題に取り組む状況をフォローし、IVI本部との橋渡しの役割を果たすなど地元企業のお手伝いをしていきたいと考えている。

 

観光まちづくりの取り組みが地域へのアイデンティティー醸成と経済活性化につながる(2016年9・10合併号)

 今月号の調査では、北陸新幹線開業後の北陸に対するイメージ調査の結果から、3県の今後の観光戦略への提言を試みている。

 人口減少・少子高齢化が進む中、活力ある地域社会を維持・発展させるには、他の地域からの交流人口を拡大させ、地域経済の活性化を図る仕組みづくりが重要である。

 特に観光産業は、雇用機会の創出や増大につながるとともに、産業の裾野が極めて広く、総合的戦略産業として、地域全体に大きな経済効果をもたらし、地域創生の原動力になるものと期待されている。

 一方で、従来の観光振興については、その主体となる自治体の行政区の範囲にとどまり、観光客という顧客志向になっていない、データに基づいた戦略策定など科学的アプローチが乏しい、責任の所在が不明確などの問題が指摘されていた。

 そこで、これらの問題に対応し、「観光地経営」の視点に立って観光地域づくりの舵取り役として注目されているのが、日本再興戦略などにも盛り込まれた日本版DMOの取り組みである。

 観光庁は日本版DMOの役割・機能として、①観光地域づくりを行うことについての多様な関係者の合意形成②各種データ等の継続的な収集・分析、これに基づく戦略の策定、KPIの設定・PDCAサイクルの確立③関係者が実施する観光関連事業と戦略の整合性に関する調整・仕組みづくり、プロモーションの3点を挙げている。

 昨年の12月から日本版DMOの候補となり得る法人を観光庁は募集、登録しており、これまで登録された候補法人は全国で81法人となっている。北陸地域では石川県で金沢市と小松市をそれぞれ対象とする(一社)金沢市観光協会と(一社)こまつ観光物産ネットワークの2法人が、富山県では富山県全域をマーケティング対象とする(公社)富山県観光連盟が登録されている。

 富山県観光連盟は6月に「(公社)とやま観光推進機構」と名称を変更し、「選ばれ続ける観光地富山-『海のあるスイス』を目指して」をコンセプトに掲げ、新幹線時代の観光戦略を進めるためマーケティング部を新設、役員も増員して始動した。

 今後、当地域においては日本版DMOが多様に形成されることも予想されるが、そのポイントとして、対外的に明確な責任を負うリーダーおよび専門的な知識・スキルを有する人材がキーパーソンとして不可欠であるとされている。そしてこのキーパーソンに対しては周囲の理解と協力が必須となるが、県外、地域外の人材、いわゆる「よそ者」であるほうがベターと言われる。

 地元では当然のように感じられることでも、他地域から訪れる観光客からは、何が評価され、逆に何が悪評となるかを地域住民が判断することは難しいが、「よそ者」であれば、その地域では自覚されていない良い点、悪い点などについての「気付き」が期待できるからである。

 さらには、観光庁は「住んでよし、訪れてよしの国づくり」を理念に掲げているが、地域住民が「住んでよし」という地域でなければ、観光客は決して「訪れてよし」とは感じられないことから、日本版DMOの活動のポイントは、地域主導による地域住民目線の「住んでよし」のまちづくりを行うことと言える。これにより地域への誇りと愛着がさらに醸成され、地域経済のより一層の活性化につながることが望まれる。

 

地元中小企業への就職率向上は、地方創生の大きな推進力(2016年8月号)

 2017年春卒業予定の大学・大学院生の就職内定率が、経団連加盟企業の採用面接解禁日である6月1日時点で52.4%に達したと報道されている。経団連の採用選考指針に縛られない企業はもちろん、加盟企業でも、事実上の面接選考を解禁前に進めていたケースは少なくないと思われる。

 人手不足感がますます強まり、完全な売り手市場のなか、企業は早期に優秀な人材を確保することに注力しており、指針の形骸化が指摘されている。面接解禁日が昨年から2カ月前倒しになったこともあり、短期決戦を見越して、昨年最終的に大手に決まった学生に内定を相次いで辞退された中堅中小企業も早めに動いたと言われている。

 北陸3県を対象にした今月号のBSI調査でも、正社員の人手不足感は引き続き深刻な状況となっており、半数以上が不足またはやや不足の回答であり、特に非製造業の大企業は75%が不足感を示すなど顕著である。また、不足している年代層については若年層特に20代が製造業・非製造業とも50%を超えており、新卒採用活動に対するヒートアップも致し方ないのであろう。

 ところで、この新卒一括採用制度は、年功序列賃金や終身雇用制度といった日本的雇用慣行に適合した採用手法と言え、戦後の高度経済成長や産業の進展を支えるエンジンとして機能してきた。そして各企業にとっても「安定した年齢別組織構造の維持」、「効率の良い教育システムの構築」、「採用戦略の設計」といった観点から合理的な手法だったと言える。

 さらには、新卒は特定の企業カラーに染まっていないため、自社の風土に馴染ませやすく、忠誠心や信頼関係が生まれやすいことから、企業文化の担い手の育成には最適のシステムだったのではなかろうか。

 しかしながら、社会の成熟、人口減少、経済成長の鈍化、ITの進展などに伴う生産性向上や産業構造の転換、大学進学率の急増などの諸環境の構造変化が進む中で、景気低迷による学卒未就業者や非正規社員の増加、入社3年以内で3割と言われる離職率の高まり、就職活動の長期化・早期化に伴う学業への悪影響の指摘増加などの影響から、この制度を疑問視し、見直すべきとの意見は高まっているようだ。

 産業界に長く根を張ったこの制度を一気に改革していくことは新たな問題の発生も予想され、困難が多いと思われるが、現実的な対応としては、まず、「学生が早期に将来を意識する環境づくり」が必要であろう。

 日本の学生は欧米の学生と異なり、自身の将来については就職活動を意識する時と同時に考えることが多く、その時間は足りないと言わざるをえない。これが原因で入社後のミスマッチや就労意識低下が発生する確率が高くなると考えられる。「自分が何を望み、目指すのか」ということを考える機会を高校までの間に授業の一環として設けることも検討に値するのではないだろうか。

 加えて、「中小企業へ目を向ける仕組みづくり」を強化していくことも必要である。学生が中小企業を避ける一番の理由は「わからないから」である。中小企業には認知度アップのために、PR強化のみならず、大学や高校との関係を親密化し、学校を通して学生とのつながりを深めることが期待される。

 そして、地元の中小企業への就職率向上は、地方創生の大きな推進力となるのであり、行政の支援も従来以上に望まれる。

 

北陸企業と中国とのWin-Winの関係構築・強化に向けて変化に柔軟に対応(2016年7月号)

 今年1月に発表された2015年の中国の実質GDPの伸び率は6.9%増であり、1990年以来25年ぶりの低い伸びとなった。この数値を額面どおりに受け止めて良いかは議論の多いところであるが、工業電力消費量、鉄道貨物輸送量、中長期貸出残高のいわゆる「李克強指数」も総じて低迷した状態が続いており、中国経済減速の日本経済に及ぼす影響がいろいろと懸念されている。

 特に、中国経済の最大の課題とされるのは、過剰生産能力の解消だが、この現状を表現するジョークとして、「世界の鉄鋼生産ランキングは1位中国(河北省を除く)、2位河北省(唐山市を除く)、3位唐山市(隠ぺいされ、報告されていない分を除く)、4~8位が日、米、ロシアなど、9位が唐山市の報告されていない分」と揶揄されている。

 今月号ではこの中国経済減速が北陸の企業にどの程度影響しているか、アンケートとヒアリングにより調査を行った。

 現状では、中国ビジネスの事業形態や業種などにより影響の度合いは異なり、過剰生産能力を有する素材や機械など重厚長大産業関連には厳しさが見られ、堅調な個人消費に支えられる業種は概して好調を維持している傾向にあると言えるようだが、経営が深刻な状況にまで陥っている企業は総じて少ないようだ。調査の中で個別企業のヒアリング事例も紹介しているが、この他にも影響が大きい企業の例としては、いわゆる「中国銘柄」とされる建機メーカーが挙げられ、不動産市況の落ち込みや、汚職対策による地方政府における公共工事の停滞、そして高度成長から「新常態」への移行による建機の爆買いの消滅などにより、まだしばらく厳しい状態が続きそうだ。

 一方で好調な事例では、マスコミ報道によるが、福井県の女性用衣料品製造販売の企業が、2013年の上海を皮切りに、3年程度の間に6カ店を出店、2年後には2桁にする計画とのことである。出店した各店は軒並み前期比40~50%の売り上げ増を記録しており、庶民がおしゃれに気を使うようになり、とてつもない購買意欲が見られ、景気後退は感じないと社長は語っている。

 ところで、個人消費の面では影響の一つとしてインバウンド消費の動向も気になるところである。2020年までに訪日客を4000万人に倍増させるという政府目標もあり、昨年の中国からの旅行者は499万人と前年比107.3%の増加となり、訪日外国人の25%を占め、国別でもトップである。

 その消費額は、1兆4174億円と前年比150%の伸びを示し、インバウンド消費全体に占める割合も40%を占めるほどとなったが、昨年来の人民元切り下げや株価の低迷などから、今後の減少も予想されている。

 もっとも、中国人観光客数が3割減少したとしても、名目GDPは663億円の減少にとどまるという見方もあり、対中輸出の低迷や中国現法の売り上げ減少に比し影響はかなり小さいと見込まれているようだ。

 中国経済の成長が緩やかに鈍化すること自体は中国政府が目指す方向であり、2020年の「小康国家」実現に向けて、イノベーション型国家の建設のため経済構造変化への取り組みは加速していくと思われ、北陸の各企業にはこのような変化に柔軟に対応するともに、世界第2位の経済規模を持つ未だ成長途上の隣国とWin-Winの関係を構築・強化していくことが期待される。

 

富山市や小矢部市の将来に向けて持続可能なまちづくりに注目(2016年6月号)

G7の関係閣僚会合が、首脳会議に先立ち各地で開催され、9月までに全国10カ所で各国の閣僚が顔をそろえる。開催地は地域の産業や観光を海外へPRする好機として準備に力を入れているようだ。

 富山市でも5月15~16日に環境相会合が開催され、サミットのロゴマークなどを描いた路面電車が走り始めて開催ムードを高めている。今回この会合直前のタイミングを捉え、森雅志富山市長に会合開催地として選定される要因となったともいえる、富山市の「コンパクトシティ戦略」の目指す姿や方向性について、トップインタビューであらためて語っていただいた。

 また、この中心的事業の一つである、市内電車環状線化の効果についても、公共交通の活性化や、沿線地区への居住促進、中心市街地の活性化などのコンパクトなまちづくりを実現する施策の3本柱の観点を中心に、この機会にまとめてみた。

 富山市では、全国の各地方都市と同様に加速度的な人口減少と高齢化の進展に対応することが必須の課題であり、20年、30年先を見据えた、将来の世代に責任が持てる持続可能な都市経営・まちづくりが必要とされていた。特に、県庁所在都市では全国で最も低密度な市街地という現状に起因する全国2位の自動車保有台数や、自動車による交通手段分担率が70%超という数字が示すような過度な自動車依存体質と、一方で免許や自分専用の車が無いなどの、車を自由に使えない層(市民の3割、うち60代以上が7割を占める)にとっては、市街地の拡大により極めて生活しづらい街となっていることが、今後の高齢者の増加に伴い、さらに深刻化していく恐れがあった。

 このような状況に対応すべく、富山市は衰退の一途だった公共交通を活性化させ、これを軸とした拠点集中型のコンパクトなまちづくりを進めた。そしてこれが結果的に環境問題のCO2排出量の削減につながったことにより、「環境モデル都市」・「環境未来都市」の選定や国連の評価となり、環境相会合の開催実現をもたらしたといえる。

 市長の談でも環境問題への効果は副次的な産物であったようにも読み取れるが、そうであったとしても、このことが市民意識の変化や富山市のブランド力向上に間違いなくプラスの影響を与えていると思う。

 また、公共交通を中心とした都市モビリティの改善が、高齢者のライフスタイルの変化、中心市街地・地域経済の活性化、環境問題をはじめとした都市力の向上、といった「正のスパイラル」を生みだしており、今後さらに市民、特に若者や子育て世代に選ばれる持続性の高い都市に変貌をとげていくことが期待されている。

 今月号では、もう一つの調査で昨年北陸に進出が相次いだ大型商業施設がもたらす地域の変化について報告している。アウトレットモールに代表される郊外型大型商業施設はコンパクトシティとは対極にある存在といえ、三井アウトレットパークは、当初富山市に出店予定だったが、富山市の打ち出している政策と整合性が取れないという判断で、現在地に変更になった経 緯もある。図らずも同じ号での取り上げとなった「コンパクトシティ戦略」を優先した富山市の中心市街地の商店街活性化と、アウトレットモールとの共存共栄を目指す小矢部市のまちづ くりの今後に注目していきたい。

 

企業・家計部門の投資・消費を活性化させるのか、マイナス金利!(2016年5月号)

 1月29日に日銀がマイナス金利導入を公表してから本稿執筆時点で約2カ月が経過した。公表後、円ドル相場は一時1ドル121円台まで円安が進み、株価も大幅な上昇に転じたが、その効果は長続きせず、ほどなく円高・株安方向に反転するなど市場は乱高下した。

 この間、マイナス金利導入に伴う効果や影響に関してさまざまな観点からの議論がなされているが、その狙いの一つと目される内外金利差の拡大を通じた通貨安と株価上昇については、中国リスクや原油価格下落、米国利上げペースを巡る不透明感などの要因もあり、マイナス金利の為替相場や株式市場に及ぼす影響はかき消されてしまったといえる。

 また、実体経済面の押し上げ効果という点では、全般的な金利低下で消費や投資を活性化させることを狙いとしているのであろうが、金利の低下余地も小さく、大きな効果は期待薄の状況のようだ。

 企業部門では超低金利を好機ととらえた積極的な設備投資に動く気配は薄く、今月掲載の「産業天気図」作成過程での企業ヒヤリングの中でも、企業経営者が負債を増加させて設備投資を大幅に増やすインセンティブにはなりにくいとする声が多い。経営者にとって、実質金利は設備投資を決断する一要素に過ぎず、期待成長率や期待収益率が高まらない限り、リスクは取らないという企業行動は容易に変わらないだろう。

 一方、家計部門でも、住宅ローンの金利低下による借り換え需要は急増していると報じられているが、新規の住宅建設・購入にまでは効果が及んでいないようである。

 ところで、マイナス金利の影響を示す一事例として「貯蓄から投資へ」ならぬ「貯蓄から現金へ」の志向が強まり、家庭用金庫の売れ行きが好調との記事が目を引いた。

 確かに日本銀行の発表では、2月の銀行券発行残高は94.6兆円で対前月比増減率が+0.9%となり、東日本大震災の発生した2011年3月に+1.5%に大きく伸びて以来の高さとなったとされ、その4割の約40兆円がタンス預金になっているとの推計も、ある調査機関から示されている。

 この現象についての合理的な説明することは難しいが、マイナス預金金利を過剰に意識した、言い換えれば、制度導入の驚きが不安心理に結びつき、現金保有増加につながったことも一部にはあるようだ。

 しかしながら、そもそも個人預金にマイナス金利の適用することは、既存預金については、預金約款上、預金者からの支払は予定されておらず不可であり、新規預金についても預金約款を改正しない限り不可というのが法曹界の通説となっているようであるので、マイナス預金金利適用に対する法律の壁は高いと言えるだろう。

 さらには、預金者が預金口座の残高維持を避けるような動きが加速すれば、給与振込から現金支給への変更による事務負担の発生や、各種公共料金の口座振替支払から集金扱いへの変更などにもつながりかねず、時代が逆行するようでもあり、マイナス預金金利適用は非現実的であるとの意見も見られ、冷静な状況判断が求められる。

 いずれにせよ、政府が示している財政再建のシナリオに対する不安感が、タンス預金に走る深層心理となっているとも考えられるのだが、ここにきて政局も絡み、消費税再増税の雲行きまで怪しくなってきた。

 

サービス品質の向上や新サービスの開発が決め手となるマーケット変化への対応(2016年3・4合併号)

 2016年は電力自由化元年と位置づけられ、4月には電力小売市場が全面的に自由化、一般家庭でも電力の供給企業を選択することが可能になる。

 60年ぶりの大改革とされる今回の電力システム改革については、ちょうど1年前の本誌(2015年3・4月合併号)で、その概要をお伝えした。その後の動きとして、小売り自由化実施直前となった今の時点の状況を今月号で再度取り上げた。

 自由化に伴い誕生した新電力会社は、商機を逃すまいと急増、昨年末現在で約800社も届出されており、この中で、北陸電力エリアを供給対象に含む新電力会社は、現在51社となっている。

 また、この中で4月から一般家庭などに小口電力契約が可能となる小売電気事業者の登録も開始されている。いずれもほとんど全国を販売エリアとする企業が名を連ねているのみであり、北陸の企業の動きは表立っては見られないようだ。

 従来から、北陸電力の料金は恵まれた水資源を背景に、全国一安い電力料金を誇っており、新電力の参入は厳しいと見られていた。それでもなお自由化に合わせ、北陸電力は年初早々に家庭向け新料金メニューを発表したが、その直後に新規参入となるKDDIが、北陸電力の一般家庭向け料金とほぼ同額となる料金を発表し、さらに利用金額に応じたキャッシュバックのセットにより、安さをアピールする展開となっている。

 今後、このKDDIのように本体事業で家庭とのチャネルを有する事業者を中心に、同様の動きが加速することが予想される。電力の安定供給を大前提として、価格面の過当な競争に陥ることなく、サービス品質の向上や新サービスの開発など、付加価値の大きさを追求する切磋琢磨により生み出される自由化メリットの享受を期待したい。

 もう一つの調査では、取り巻く環境の変化に対応を迫られている北陸の外食産業の今後にスポットを当てた。

 高度成長や家族構成の変化、モータリゼーションの進展に伴い、全国区のファストフードやファミレスを中心に外食産業は1990年代後半にその市場規模はピークを迎えたが、その後の長引く景気低迷と価格競争の激化、人口減少・少子高齢化の進展、コンビニを中心とした中食市場へのシフト等の要因により、苦戦を余儀なくされた。

 アルバイトやパート中心の人件費の変動費化によるコスト競争力のアップ、FCやセントラルキッチンを活用した大量出店による知名度の向上と集客力の強化等従来のデフレ型ビジネスモデルはもはや限界にきており、低価格競争から脱皮する戦略転換が商品・人材・出店各面で必要となっている。

 そして、そのための対応策の一つとして、本文にもあるとおり、海外への展開を検討する動きが北陸の企業でも増えつつあるようである。特に、2013年12月に日本食が「ユネスコ無形文化遺産」に登録されてから、世界的な日本食への関心の高まりに拍車がかかったこともあり、全国ベースではアジアを中心に海外での日本食レストラン数がこの2年半で、5万5000店から8万9000店(うちアジアは約4万5000店)へと1.6倍に急増したとされている。

 北陸の外食産業には、マーケットの環境変化に対するアンテナを高くするとともに、グローバル化の流れにリスクを踏まえて柔軟に対応していってもらいたい。

 

経済成長と財政健全化につながる腰の据わった税制面の取組を期待(2016年2月号)

 自民、公明両党による2016年度税制改正大綱の内容がまとまった。

 とりわけ、消費税への軽減税率の導入についてはご承知のとおり、その対象品目の線引きについて両党の間でいろいろな駆け引きが繰り広げられた。

 そもそも、この軽減税率は「低所得者に配慮する観点から」検討されてきたものであったが、負担軽減額の大きさから高所得者に有利な内容となったとの意見も目立つ。

 言い換えれば、軽減税率の対象品目の購入額では低所得者より高所得者のほうが多くなるはずであり失われる税収も大きいことになる。軽減税率を適用せずに高所得者に標準税率で課税して得られたであろう大きな税収があれば、それを財源にして別の観点からの低所得者対策が可能になったと思われ、その機会を逸してしまったことになる。加えて、必需品である食料品に対しての減税は消費拡大につながるわけでもなく、景気への経済効果についても多くは期待できないと考えられる。

 また、この軽減税率の導入に伴い失われる税収は1兆円とされ、この穴埋めに必要な財源のうち未決定の6000億円の確保は、2016年度末まで結論を先送りされている。

 今のところ、財源の候補としてたばこ税、相続税、所得税などが挙げられているが、小手先の対応ではなく、長年手つかずのままになっている所得税に関する「岩盤税制」に踏み込むことを中心とした税制の抜本改革に取り組む必要があるとの声も多い。

 この所得税の課税対象となる収入は、約240兆円(2014年)ほど生み出されているが、このうち最終的に課税される対象として残るのは100兆円に過ぎない。

 140兆円という大きな規模で多種多様な所得控除が存在しているからであるが、もう一つの控除となる税額控除は7000億円程度しか適用されていないとされる。

 所得控除は所得税の持つ累進税率という性格上、高所得者の方が税負担の控除金額が大きくなるが、税額控除であれば税率と無関係に、低所得者も高所得者も同じ額だけ税負担が軽くなる。所得控除を多用しすぎると所得格差の是正機能が弱まることが問題であり、結婚して子育てをする若年・低所得層に配慮する観点からも、各種の所得控除方式を見直しと税額控除の活用が政府税制調査会でも提起されている。

 人口減少が進む中で日本経済の成長力を維持していくには、労働力率と生産性の向上が不可欠であり、そのためにはわれわれの日々の暮らしの中に潜む数々の税の矛盾を是正していくことが、日本経済の最大の課題である経済成長と財政健全化につながるともいえよう。

 今月号の「経営者の景気見通し」の中でも、経営における懸念事項の2位に人手不足が挙げられているが、日本総合研究所が推計した「企業が現状より増やしたい労働者数」によると、2014年平均の労働力不足は195万人であるが、10年後には570万人にも上る可能性があるとも指摘されている。

 税制面から働く意欲のある女性や高齢者の活躍を促すことはもとより、安心して出産・子育てができる環境を整えていくことも潜在成長率の底上げには必須であり、目先の選挙対策にとらわれない腰の据わった取り組みを期待したい。今年の参院選から18歳以上の若者が選挙権を持つ。「次の世代」はどんな審判を下すだろうか。

 

一億総活躍プランの策定において真摯な議論の展開が望まれる(2016年1月号)

 明けましておめでとうございます。

 本年も「北陸経済研究」のご愛読をよろしくお願い申し上げます。

 この新年号では新春特集として、『資本主義の終焉と歴史の危機』の著書で有名な、エコノミストの水野和夫氏との新春対談を掲載した。2016年の世界と日本の経済見通しから今後の資本主義の方向性についてまで、氏の特徴的な持論が展開され、興味深く示唆に富む内容となっている。さらに、もう一つの新春特集として新年度の北陸経済見通しについて、これまでのQE推計のノウハウを活かして当研究所としての見方を発表した。

 雇用・所得環境の改善を主因として、個人消費や住宅投資をはじめとした民需の増加が見込まれ、北陸経済の実質GDP成長率は+1.3%と予測している。

 いずれの特集も初めての企画であり、皆様のご意見やご感想をお聞かせいただき、今後の参考にしていければと思う。

 新年度の国内の経済見通しについては、年末にかけ各経済研究機関から相次いで発表されているが、その予想成長率は前年比+1.5%前後が中心のようだ。

 国内経済は中国経済の下振れ、原油安や米国の出口戦略に伴う新興国市場の動揺、地政学的リスクを背景とした世界的株安と円高等のリスク要因に留意が必要ではあるが、潤沢な手元キャッシュフローの状況など良好な設備投資環境を背景に、基本的には景気は緩やかな回復軌道にあるという見方が多いようである。

 とりわけ、経常利益が4年連続で過去最高益を更新すると見込まれる好調な企業部門から家計部門への所得還流の増大による個人消費の拡大に期待するところが大となっている。言い換えれば、企業業績頼みの色彩がますます濃くなっていると思われ、また、設備投資や賃金水準など個々の企業判断で決定されるはずの内容に政府が関与し、要請を強める姿勢を見せていることが、気にかかるところである。

 このほど発表された一億総活躍社会緊急対策においても、政府は「今後5年程度で名目GDP600兆円を実現」するため、GDPの6割を占める個人消費を拡大することを柱の一つに掲げ、過去最大の企業収益を踏まえた賃上げを期待することを表明している。また、最低賃金についても、年率3%程度を目途として、地域別最低賃金加重平均額が1000円(今年度は798円)となることを目指し引き上げを図る方針が示されるなど、その傾向は更に強まっているようだ。

 この緊急対策全体については、家計支援的な性格が強いことから短期的な政策と中長期的な政策とが混在する形となり、さらには各省庁の従来施策の寄せ集め的な印象も与え、目標達成に向けた道筋や財源が不透明だといわれている。日本の安定と活力を維持するために重要な少子化や介護の対策については、長期を見据えた革新的な取り組みが求められることになるのだろう。

 法人減税や規制緩和を中心とした成長戦略の着実な実践による企業価値向上への取り組みと並行して、長時間労働の是正による仕事と家庭を両立させるような働き方や、正規と非正規の区別をなくす雇用制度などの抜本的改革、保育・介護を担う人材の育成・確保対策などを中心に、これから策定される予定の「一億総活躍プラン」の中で、真摯(しんし)な議論が展開されることを望みたい。

 

北陸新幹線の完成にむけ、北回りの地域間交流を意識した、次代につながる大動脈の構築に向けた総合的な検討を期待(2015年12月号)

 北陸新幹線開業から半年が経過した節目として、今月号では「新幹線開業後の北陸を振り返る」と題し、各企業へのヒヤリングも交え、この半年間を俯瞰してみた。

 各方面にいろいろな効果・影響を及ぼすとともに、課題も浮き彫りになってきているが、とりわけ新幹線自体に関わるものとして敦賀以西への延伸問題すなわち、「北陸新幹線の完成」が最大の課題であろう。

 8月に与党の「敦賀~大阪ルートの検討委員会」が開催され協議が本格化、これまでの3案に加えJR西日本から提案された小浜・京都ルートも検討対象として、2年以内に結論を出すとしているが、関係する当事者が多く、沿線各県の利害調整も絡み選定までは紆余曲折が予想されている。

 四つの案の長所や問題点、各自治体や関係団体の意見等は本文に記載のとおりであるが、大観光地の京都を経由するほうが好ましいというのが共通の認識になりつつあるようであり、今後は敦賀~京都間の通過自治体となる福井県と滋賀県における各ルートのもたらす経済効果と負担を中心に検討を加えていくことになるのだろう。

 たとえば、福井県の主張する小浜ルートであれば、新幹線開業後は在来線の小浜線は第3セクター化されることになる。これからの議論になっていくのであろうが、芦原温泉から敦賀までの区間の第3セクターの収支に、小浜までの区間が加わることによる収支の変化はどうなるのかは判断の一つのポイントになると考えられる。

 また、小浜線沿線にできると予想される新幹線駅は小浜駅1駅と思われ、その小浜駅には前例からすれば最速の「かがやき」は止まらないことも十分予想されることから、観光面での経済効果も期待されるほど大きなものにならないかもしれない。

 一方滋賀県の場合は、どのルートに決定しても、現在北陸と京都・大阪を結ぶメーン路線となっている湖西線に大きな影響が出るであろう。新幹線に置き換わることにより、湖西線の需要は減少しその有用性が低下することが懸念される。

 特に、湖西線ルートに決まった場合は福井県と同様に第3セクター化は必至であり、その運営が大きな課題になるであろうし、通過距離の長さに伴う滋賀県の建設費負担も大きくなる。これまでの滋賀と北陸の関係を勘案すると、新幹線による北陸への時間短縮効果も大きなインパクトにならず、受け入れがたいとされるかもしれない。

 逆に小浜ルートであれば、県内を北陸新幹線がほとんど通過することがなくなり、建設費負担はほとんど発生せず、また、湖西線の需要に影響はあろうがその経営は今まで通りJRであることから、表面的には大きな変化はないことになる。

 以上は一例であるが、特集本文での指摘も含め、新幹線建設に関わる費用や時間等の直接的な条件比較以外にも様々な角度からの議論と調整が求められている。

 そもそも、北陸新幹線整備計画が決定されたのは40年以上前のことであり、社会環境は激変し、南海トラフ巨大地震の震源想定地に近い東海道新幹線の代替機能の役割期待もさらに大きくなっている。

 予算獲得で北海道新幹線札幌開業(2030年度末予定)と競うのではなく、北回りの地域間交流を意識した、次代につながる大動脈の構築に向けた総合的な検討が進められることを期待したい。

 

高齢社会、既成概念に囚われない抜本的な社会保障制度の見直しや政策の転換が必要(2015年11月号)

 GDPの6割を占める個人消費が盛り上がってこない。4~6月期の個人消費は前期比0.7%減と大幅に落ち込み、消費支出額は消費税増税直後の平成26(2014)年4~6月期とほぼ同水準まで低下しており、増税から1年以上経過したが、消費者の節約志向は依然強いままであることが窺われる。

 北陸3県においても今月号の調査「四半期経済速報」で示されているとおり前期比横ばいで足踏み状態となっており、消費支出額も全国と同様の傾向が見て取れる。

 ベースアップや雇用増、ガソリンをはじめとしたエネルギー価格の下落等プラス材料はあるが、一方で4月以降相次いだ食料品や生活必需品価格の上昇や、6月の長雨による天候不順がエアコンや夏物衣料品の不振に追い打ちをかけたことがこの期は大きく影響したとされている。

 しかしながら、7月の家計調査でも1世帯当たりの実質消費支出は前年同月比0.2%の減となり、それまでとは打って変わった猛暑やボーナス支給という好条件が重なったにもかかわらず、2カ月連続の減少となっている。

 家計の慎重さは長期にわたって続いており、特に年金収入で暮らす高齢者が支出を抑えているといわれる。29年度に予定される消費税増税への備えや社会保障制度への根強い不信が、公的年金の給付切り下げの中で消費を冷え込ませている可能性がある。

 高齢者といえば最近「下流老人」という言葉をよく目にする。同名の書籍が6月に発売されたのを皮切りに、新幹線内で焼身自殺をした高齢男性の事件もあり、週刊誌を中心に「あなたも下流老人に!?」といったタイトルの記事が目立つようになった。

 直近の人口推計では、65歳以上の高齢者は昨年比89万人増の3384万人、総人口に占める割合は26.7%となり、ともに過去最高を更新、また80歳以上は1002万人と初めて1000万人を超えたようである。

 高齢化の要因である長寿化は間違いなく戦後70年の日本の実現した最も顕著な成果の一つである。にもかかわらず年金や生活保護中心となる老後の低収入を背景に、少子化の進展や非正規労働の増加による子供の自立の遅れなど支え手の問題、健康の悪化や社会保障の負担増などの要因も加わり、生活に困窮する高齢者の事例が雑誌のみならず、TVでも次々と紹介されている。

 長く生きることへのリスクが強調され、不安感を必要以上に煽られている感もあり、人々が不安のあまり萎縮し、ますます自己防衛的な行動に走ることが懸念される。

 貧困については高齢者のみならず、中年期や若年世代の問題でもあり、このままでは全国民が不安におののいて、自身の財産と生活水準を守ることに必死となる「総不安社会」に変容してしまう。

 今般、アベノミクスは第2ステージに移行、「強い経済」「子育て支援」「社会保障」が新三本の矢として掲げられ、その中で高齢者が活躍する場を広げ、「生涯現役社会」の構築を図る方針が示されたが、あわせて、財政再建も睨み合わせながらであるが、高齢者の不安感を払拭するような、既成概念に囚われない抜本的な社会保障制度の見直しや政策の転換が必要となろう。

 世界に冠たる長寿国となった日本の高齢化への取り組みが、今後同様の道を辿ることになる諸外国から先行事例とすべく注目されている。

 

北陸地域を中心にした新素材イノベーションの進展に注目!!(2015年9・10合併号)

 今月号の調査では、日本が生産量の世界シェアの7割を占め、最近特にその利用範囲拡大の期待が高まっている、「炭素繊維複合材」を取り上げている。

 炭素繊維は19世紀にエジソンが日本の竹を蒸し焼きにして炭素化し、白熱電灯のフィラメントに使ったのが始まりと言われており、その後1950年代にアメリカで宇宙開発用に耐熱性の高い資材が必要となったことに伴い、研究開発が本格化してきたとされる。われわれ一般消費者にとっては、1970年代以降日本の大手繊維メーカーによるテニスラケット・ゴルフシャフト・釣竿等のスポーツ用具開発により、その存在を認識した方が多かったのではないだろうか。

 炭素繊維は鉄に比べ4分の1の軽さながら、10倍以上の強度があるという特長があり、ただの繊維ではない。また、軽量化による二酸化炭素排出量や使用済み炭素繊維のリサイクル化進展に伴うエネルギー消費量などが削減されることになり、環境負荷低減への貢献も期待されている。

 しかしながら、現在でも1kg約5000円という価格面の問題もあり、その用途拡大が進まず相応の年月が経過していたが、ここにきてようやく航空機への採用に拍車がかかり、風車・圧力容器での使用増加や、高級自動車から汎用車への展開も見込まれるなど、市場は拡大期を迎えた感があり、市場規模は平成32(2020)年には約14万tと23年の3倍以上に成長すると予測されている。

 特に航空機については、最新鋭機であるボーイング787では、メーンの材質がアルミから炭素繊維に変わり、主翼や胴体など機体の一次構造の大半を日本企業が担う結果となっており、軽量化に伴う燃費向上、胴体構造の強度化による客室スペース拡大、耐久性アップによるメンテナンスコスト削減などの効果が大きく、航空機向け素材としての地位を確立したと言える。

 高度な技術力に加え、多額の設備投資・研究開発費が必要であることから、参入障壁が非常に高い分野であるが、日本の繊維メーカーが中心となり、炭素繊維を将来の構造材の中心にするという経営方針をぶれさせず、息の長い取り組みを続けてきたことがようやく結実してきたと言えるだろう。

 北陸地域においても調査で報告されているとおり、繊維産業や加工技術の高い企業の集積という優位性を背景に、石川・福井を中心に中間素材・部材の生産・供給という川上としての位置づけで先進的な様々な取り組みが進められてきたが、今後さらに川下にあたる最終用途と結びつけることによる事業の安定化が課題とされている。

 これに対応すべく、北陸地域では金沢工業大学、東海地域では名古屋大学に整備された産学官連携の研究開発拠点を核としてその連携を深め、川上から川下に至る一貫した拠点化を図り、国際競争力を有する炭素繊維複合材料の一大生産・加工産業の集積地帯の形成を目指す動きもスタートしている。加えて、富山県ではマグネシウム・チタン等の軽金属材料やナノ材料分野の研究開発に取り組んでいることから、北陸地域が日本における高機能新素材供給の中心地としての役割を担う可能性は高い。

 素材が変われば社会が変わると言われるほど、新素材は産業革命につながる可能性のある分野である。

 北陸地域を中心にした新素材イノベーションの進展に注目したい。

 

成長戦略において果たす役割がますます大きくなる官民連携(2015年8月号)

 内閣府発表の1~3月期の実質GDPは年率換算で3.9%増と、好調な企業収益を背景にした設備投資の高い伸び(前期比2.7%増)を主因に2期連続のプラス成長となった。

 一方、GDPの6割を占める消費は家電を中心とした家庭用耐久財などが引っ張る形で前期比0.4%増と3期連続で伸びたが、増加率は前期と同じで力強さに欠け、回復の足取りは緩いとされる。

 ただ、5月の家計調査による消費支出は、前年同月比4.8%増と1年2カ月ぶりで消費増税後初のプラスに転化しており、また、景気ウォッチャー調査でも賃上げ期待からの消費マインドの向上も窺われ、「所得増・支出増・生産増・所得増」という前向きの経済循環による消費拡大の土壌ができつつあると思われる。今月号の北陸の企業経営動向調査(BSI)でも、27年下期の業況見通しが改善すると見込む企業が増加していることに加え、何らかの形で賃上げを実施する企業が8割と高く、特にバブル崩壊以降その名称も忘れ去られていた感のある「ベア」も約5割の企業で実施するとの回答もあり、今後、民間需要が主導する景気の自律回復に弾みがつくことを期待したい。

 こうした景気の足元の状況も踏まえて、政府の経済財政諮問会議で検討されてきた「骨太の方針2015」がようやく固まった。

 2月に公表された「中長期の経済財政に関する試算」では、現状に近い「ベースラインケース」と潜在成長率の向上により、「名目3%以上、実質2%以上」の経済成長率を達成する「経済再生ケース」が示された。しかし、「経済再生ケース」でも2020年度の基礎的財政収支(PB)は9兆4000億円の赤字とされており、会議では20年度のPBの黒字化達成のため、いかにこの赤字を解消するかが焦点となり、経済成長主導と歳出改革主導の議論が、政府と財務省・与党自民党の間で展開されてきた。

 成長による税収増期待は「雨乞い」との批判に対して、成長戦略の効果を「腕のいい祈祷師」に例えるなど、興味深い応酬も繰り広げられたが、結果、20年度までの中間地点となる18年度の2つの「目安」としてPBの赤字を名目GDP比1%程度(現状3.3%)に圧縮、歳出額の上限ではなく歳出水準の設定という玉虫色の決着となった。

 当面は歳出削減など経済への下押し要因を極力回避し、成長戦略による税収増の確保に徹するシナリオである。

 意見は分かれるところであろうが、そもそも議論の前提となった「経済再生ケース」で示す成長率の達成については、非常にハードルが高いとされている。中長期的にはGDPは潜在成長率に収束していくといわれており、日本の潜在成長率が平成18(2006)年1~3月期以降1%を下回って推移している現状、また、成長率の構成要素である労働投入量の生産年齢人口減少に伴う縮小、資本ストックの進展による資本投入量の伸び悩み等から、潜在成長率を急速に高めることは容易ではないと思われる。

 今回、成長戦略はこの課題を克服すべく人口減少下での供給制約の解消へと新たなステージに入るとし、生産性革命の実現をアピールしている。この内容やこれまでの実績はともかく、官は従来以上に創造力を引き出す環境整備に徹し、民は経済活動の主役は民間であることを再認識するとともに、成長に向けた独創的な投資戦略の策定と実行力のパワーアップが必要となろう。

 

今月号の「北陸の伝統工芸・医薬品業界の現状と課題」から見えてくるもの(2015年7月号)

 輪島市を舞台にしてスタートしたNHKの朝の連続ドラマ「まれ」が好調のようだ。

 ドラマの中で、当地の伝統工芸であり、漆器の最高峰である輪島塗がストーリーの展開上重要なポイントとして位置づけられているとともに、昔ながらの丹念な塗りと加飾に見られる伝統の技法や複雑で多様な職人技、品質の高さなどが現在まで受け継がれていることも描かれており、あらためて全国の視聴者に輪島塗の魅力をアピールしているのではないだろうか。

 この輪島塗をはじめとして、北陸地域は全国的にも有数の伝統工芸品の産地であり、国指定伝統的工芸品は、北陸3県で22品目もあり、生産額も3県とも全国上位にランクされている。

 しかしながら、今月の伝統工芸に関する調査にも報告のとおり、生活様式の変化や中国製品など安価な製品の供給等の外部環境の変化に加え、産地統括機能の低下や新製品開発力・販路開拓力の不足、経営人材・後継者不足等に見られる産地側の問題点もあり、バブル期以降生産額は4分の1程度にまで減少を余儀なくされている。

 そして、このような規模の縮小が従事者の自信の喪失、大規模な退出に拍車をかけており、その結果として、産業基盤そのものの存続の危機に晒されている。

 更に、これが密接な関係にある観光産業にも大きな影響を及ぼしかねないと考えられることから、伝統工芸産業の衰退は一産業の問題にとどまらないと言える。

 伝統工芸産業の次代を担う人材、つまり、先人の技法を継承しながらも、魅力的な新しい商品を作り、新しい販路・市場を開拓し、新しい活動を可能にする柔軟な組織に改革できる人材の育成が、今こそ強く望まれ、ドラマに登場する青年のような、自分が新しい伝統を繋いでいくという高い志を持つ若者が増加してくることを期待したい。

 もう一つの調査では、これも北陸の主要産業である医薬品製造業について報告している。特に富山県で生産額増大の大きな要因となっているジェネリック医薬品については、医療費抑制に向け、その普及率の更なるアップを目指す政府の施策もあり、引き続き拡大が予想されるとしている。

 一方で、同じ医療費抑制の観点からは、過剰・重複投薬の防止や薬の飲み残しの削減など、薬の投与量を抑制する動きも加速しており、業界を取り巻く変化は激しい。

 日本薬剤師会の推計では、いわゆる「残薬」は年間500億円規模とされており、また、高齢化の進展に伴い、75歳以上の半数近くが複数の医療機関に通っている状況による薬の重複も多くなっている。

 薬局側でも、7割が一つの病院の処方箋に依存した経営(門前薬局)になっており、機械的に薬を出したりするケースも多く、危険な飲み合わせを防止しきれず、患者への指導・助言も不十分と言われる。

 このような現状に対応すべく、複数の病院で処方された薬の服用を一元的に管理し、医師との連携も強化する「かかりつけ薬局」の普及が財政健全化計画の中で強力に推進されるようであり、その浸透度や効果によっては、今後の医薬品製造量に大きな変化が出ることも予想される。

 北陸の医薬品業界は、財政健全化に向けた医療関係費用削減の取り組みの本格化を見据えた弾力的な経営を実践し、ビジネスチャンスの拡大につなげて欲しい。

 

地元企業や市民が活動の主体となる産業観光の取組(2015年6月号)

 本号が発刊になるのは、北陸新幹線が開業してはや2カ月が経過している頃となるが、開業後1カ月の時点でJRから発表された利用者数は、開業前に北陸とのアクセスに使われた在来線特急の前年同時期と比較して約3倍と好調に推移している様子だ。

 各観光地も入場者数は大幅に増加しているようであり、旅行代理店の首都圏発北陸方面ツアーも4~6月の予約者数が前年同期の4倍となるなど、新幹線効果は予想以上に表れているといえ、経済波及効果の拡大が期待される。

 今月号の特集では、このような新幹線効果により注目が集まっている観光産業について、その現状と一過性の現象に終わらない、持続的な効果創出に向けての課題について取り上げている。

 全国的にも著名な自然資源や歴史文化資源を有する観光地の多くが今では観光利用の大幅減少、低迷にあえいでいる。

 もはや、単に美しい自然や壮麗な歴史的事物を見て回るといったありきたりの観光では人々は満足せず、「知る」「学ぶ」「体験する」観光、いわば「自己実現・自己啓発」タイプの観光への志向が高まりを見せているといわれる。

 「ニューツーリズム」、とりわけその中の「産業観光」はこのような知的欲求を満足させる観光形態として大きな可能性を秘めているとされ、多くの自治体や経済・観光団体が中心となり、「地域振興」の切り口の一つとして取り組みが強化されつつある。

 中でも北陸は地域固有の風土を背景に、ものづくり産業や伝統工芸・文化が発達し、その長い歴史の中で、先端技術を有する工場、伝統工芸や地場産業を紹介する資料館が数多く存在するなど、産業観光を発展させていく素地がある地域である。

 富山県商工会議所連合会では、新幹線開業に合わせるように、この程県内105カ所の産業観光拠点をまとめた初のガイドブック「富山産業観光図鑑2015」を発刊し、ものづくり県富山の魅力をPRしていこうとしており、地域内に点在する産業観光情報を編集し、地域の特性をアピールするテーマ性・ストーリー性のあるルートが紹介されているので、ご高覧いただければと思う。

 一方で、産業観光は、企業自体が期待する直接的な意義・効果と企業の社会貢献・地域貢献(CSR)といった目的とを整合させる格好の手段でもあると考えられる。

 企業側が期待する企業理念などのPR、社会的イメージの向上、ものづくりの意義・大切さへの理解、人材の育成促進と獲得、製品PRと販売機会の拡大、ユーザーからの情報収集力の増大、工場内の従業員の意欲向上・整理整頓の徹底と品質向上などの直接的な効果が、産業観光への取り組みを通して期待・実現できるメリットは大きく、企業側の理解も深まってきている。

 また、産業観光は人口減少対策という視点からは、域外に進学した人が地元に戻る(Uターン)気付きにつなげるために、つまり地域にやりがいを持って働くことのできる場所があると知ってもらう機会を提供することにも効果があると、日本政策投資銀行の調査レポートでも論じられている。

 産業という地域にとってはごくごく日常のものを観光の対象にすることから、各企業や市民が地域資源として再発見・再認識し、ものづくりのまちとしての自信と誇りを持って取り組むことが重要であろう。

 

持続的な地方活性化に結び付けるような北陸新幹線の活用を追求(2015年5月号)

 北陸にとって「百年に一度の風になる」と言われる新幹線が遂にやってきた。

 昭和40年の構想浮上からちょうど半世紀、48年の整備計画決定から42年の長い年月を経て、そして約1兆8000億円と見込まれる莫大な事業費をかけ、ようやく北陸の地に高速鉄道による新時代が幕開けした。

 当研究所でも金沢・新高岡・富山・黒部宇奈月温泉の地元各駅、そして東京駅の5カ所で開業初日の様子を取材し、今月号の冒頭にグラビアで掲載している。

 各種の開業イベントも催され、あふれる乗降客や見学客の喜びのエネルギーが各駅の中に充満している様子がひしひしと伝わってきた。

 また、開業が近づくにつれ、マスコミを筆頭に、JR東西各社、旅行代理店などにより、かつてないほど「北陸」が全国発信され、首都圏では北陸ブームの兆しが見られるようである。

 新幹線開業に伴う経済効果は、富山県が約120億円、石川県で約180億円と当研究所では試算している(詳細は「北陸経済研究」2014年6月号を参照されたい)

 この開業効果を一過性のものに終わらせることなく、つまり観光面のみならず、他の産業にも広く効果を浸透させ、持続的な地方の活性化に結びつけるような新幹線の活用を追求していくことが必要といわれる。

 時あたかも各自治体は地域の成長力確保のため、「まち・ひと・しごと創生法」に基づいて、地方版総合戦略の策定を政府から求められている。地方の人口減少抑制や経済の活性化策に、同じタイミングでの新幹線の開業をフォローの風ととらえ、期待できる施策を計画に盛り込んでもらいたい。

 とりわけ、機械製造、電子部品・デバイス、製薬・化学、非鉄金属等に代表される製造業の集積が非常に厚い北陸の産業構造を生かし、次世代の成長産業と期待される、航空・宇宙分野、新素材分野、医療・医薬分野を中心に、首都圏を新たな商圏としたビジネスチャンスを拡大させる。一方で、首都圏企業がリスク回避のために、本社や生産拠点の機能分散を図る候補地としての北陸の優位性をアピールし、誘致活動を強化するなど、産業交流の活発化による雇用創出が大きな柱になると思われる。

 制度的にも、「地方創生」政策の一環として、地方拠点強化税制の制定や、各自治体の優遇策の後押しもあり、活用を図りたい。

 国土交通省は昨年7月に発表した「国土のグランドデザイン2050」の中で、人口減少下での「国全体の生産性を高めていく」ための国土構造の基本コンセプトとして「コンパクト+ネットワーク」を挙げている。いくつかの拠点都市を中核として都市の集約化を図り、それらの拠点都市をネットワークで結び交流人口の拡大を目指す。

 新幹線網はそのネットワークの重要な一角を構成する交通手段であり、人口減少が進む21世紀日本の基盤的インフラと言える。これを備えた北陸は地理的条件や産業特性面からも恵まれた条件が揃い、首都圏一極集中の改善と、地方経済の再興の成否について全国から注目される地域となってくる。

 今月号より、さらに読みやすく、親しみやすい月刊誌とすべく、カラーページを大幅に増加させておりますがいかがでしょうか。引き続きご意見、ご要望をお待ちしております。

 

空き家の増加は不動産に対する価値観の大きな変化の表れ(2015年3・4合併号)

 最近、雑誌等でよく「実家の後始末」をテーマにした記事が特集されている。

 地方に暮らしている両親の死亡や介護施設への入居により、実家が空き家状態となり、その後の管理や最終的な処理をどうしていくかという内容であるが、自分自身の経験からも肉体的、精神的、そして金銭的にも大変な負担であると実感され、安全面からも社会問題化している。

 昨年発表された総務省の住宅・土地統計調査では、平成25年10月時点における国内の空き家総数は約820万戸、住宅総数に占める割合は13.5%となり、富山県でも、空き家数5万6200戸、空き家率12.8%といずれも過去最高を更新している。

 最近では人口減少・高齢化の進展により、地方のみならず都市郊外の住宅についても同様の傾向が見られており、加えて、総世帯数5246万世帯に対し住宅総数6063万戸とされる住宅の供給過剰状態が、昭和43年以降続いていることからも、さらなる空き家の増加が懸念されている。(25年後には空き家率30%以上になるとの予測もある)

 今月号の調査「北陸の住宅建築の動向と課題」の中でも、この現状を踏まえ、住宅メーカーからも住宅の質の向上と空き家対策が今後の課題としてあげられており、リフォームやリノベーション事業への取り組み強化が必要と認識されている。

 戦後、日本では高度成長を背景に、人口増と核家族化による世帯数増加に対応すべく、都市近郊を中心にして860兆円を超える住宅建設投資が行われてきたが、現在資産として残っているのは250兆円前後といわれており、投資に見合う資産が蓄積されなかった形となっている。

 これまで日本の住宅は、いずれ売却することを念頭においた手入れがなされてこなかったため、中古住宅購入者の不安が大きく、需要は伸びず、一方、住宅所有者にとっては手入れをしても中古市場で評価されるわけでもなかったため、手入れを行うインセンティブが働かなかった結果であろう。

 空き家問題は、行政を中心に既にいろいろな対応が検討・実施されてはいるが、今後は、築25年くらいの住宅に再投資を行い、中古住宅の価値を高め、「準新築」として循環させるとともに、新築に偏る住宅政策の見直し、中古住宅取得時の金銭的メリットの拡大等中古取得が有利になる仕組みづくりが、根本的な解決に不可欠となると思われる。

 さらには、需要増が予想される介護施設や老朽化の進む公営住宅等への活用も視野に入れた中古住宅市場の形成が必要である。

 そして、このような空き家の利活用は、現在、富山市をはじめとして全国各地で取り組みが推進されている、高度成長期に無秩序に拡大した市街地を縮小・コンパクト化していく街づくりと連動させ、このエリアで重点的に取り組んでいくことが地域経済活性化に効果的であり、地方創生にもつながっていくと考えられる。

 これまで、家は資産の象徴であり、家を持つことは人生の中で大きな目標であった。

 そして子供たちに残すことを夢見て、日本人は一生懸命に働いてきたのであるが、「人口オーナス」を迎えた今後は、需給面、管理コスト(特に税制面)、家族構成の変化等から負の資産になる可能性を孕んでいる。

 空き家の増加は不動産に対する価値観の大きな変化の表れであるように感じる。

 

持続的な経済成長と財政再建の両立を最大の課題として腰の据わった経済政策運営を期待!(2015年2月号)

 2015年の国内景気見通しについては、10月に予定されていた消費税率引き上げ延期による景況感の下押し圧力の緩和、原油価格の下落や円安・株高の進行による経済環境の改善、雇用・賃金の増加等を背景に、個人消費の緩やかな増加や企業の設備投資意欲の高まりが予想されることから、各経済研究機関の2015年度実質GDP成長率は前年比1.5%前後の予想が多いようである。

 今月号の調査では、「北陸3県企業経営者の景気見通し」を集約・発表しているが、2015年上期の業況判断BSIは全体的には26年下期比「変わらず」が約半数を占め、ほぼ横ばいとの判断が示されている。

 26年上期より業況判断BSIが20ポイント強マイナスとなった下期の状況が継続する形であり、引き続き慎重な見方が強い印象であるが、特に円安の影響がマイナスに働く度合の大きい中小企業にその傾向が顕著であり、まだまだ大企業との景況感には格差が見られ、業況の回復までにもう少し時間がかかりそうである。

 また、「北陸の四半期経済速報(北陸のQE推計)」でも、7~9月期の北陸の域内総生産は前期と比較して、全国が2四半期連続で実質マイナスとなるなかで、実質1.0%のプラスに転じ、持ち直しの動きが見られるものの、その水準は前年同期を下回っており、特に最大の需要項目である民間最終消費支出が前年同期比マイナス2.8%となるなど、内需の弱含みが懸念される数値となっている。

 このような状況の中、持続的な経済成長と財政再建の両立を最大の課題として、第3次安倍内閣がスタートした。

 アベノミクスを争点にし、その信任を得た結果となったことから、当面の景気回復を確実にするとともに、経済活性化の主役である民間企業や個人の活力を引き出すことを促す「第3の矢」が、従前に比し、どこまで力強く放たれるかが、まず注目されるところである(「期待外れ」という評価で済ませられる時期は終わっている)。

 成長戦略にあげられている規制緩和や自由化による民間活力の活性化・革新意欲の向上は、政府がコストをかけずに実行でき、かつ大きな成果が期待されるものであり、いわば無から有を生む政策と言えよう。

 さらに、人口減少と少子高齢化に直面する中、財政と社会保障をどう立て直していくのか、その対応も急がれるところであるが、選挙戦では給付減や負担増の問題はあまり語られなかった。

 GDPの2倍を超える借金は先進国で最悪のレベルであり、次世代に負担のつけを回すのは限界にきているといえ、「不利益の分配」はもはや避けて通れない課題である。

 歳入の4割以上を国債発行に頼る体質からの脱却を図り、財政に対する不安を除去することが、民間活力の活性化という面にも相乗効果が期待できると思われ、社会保障改革の工程表の作成を急いでもらいたい。

 困難を伴う「狭い道」ではあるが、腰の据わった経済政策運営を期待したい。

 それにしても、今回の選挙の投票率が2回続けて過去最低を更新し、北陸3県が特に顕著であったが、2人に1人が棄権した形となったことは、理由はいろいろとあるにせよ、憂慮すべき状況である。

 困難を伴う「狭い道」ではあるが、腰の据わった経済政策運営を期待したい。

 一部の利益しか代弁しない政府が生まれることの危うさと、議会制民主主義の意義を次代の有権者に伝えることの重要性が問われている。

 

本年こそが人口減少という大きな環境変化に対応し、各方面にわたる戦後体制からの変革が本格化する年に!(2015年1月号)

 地域の食文化に合わせた品揃えが特徴である地場食品スーパーの競争が激化し、県域を超えてスーパーリージョナルとなる企業が登場するなど、スポーツの世界に例えると、さながら県・地方の予選を勝ち上がり、全国大会が始まったかのような様相を呈している感がある。

 北陸でもこの傾向は顕著であり、本号の調査「北陸の食品スーパーの動向」でも詳述されているように3社による寡占化の動きに拍車がかかっている。
 長期化するデフレと消費低迷に伴う売り上げ減少という経済環境下、各社は生き残りを図るためいろいろな形で対応を行ってきたが、全国的に見た場合、勝ち残っている企業に共通する大きな要因の一つとして、立地環境の変化にうまく適応できたかどうかが上げられると言われる。

 つまり、核家族化とモータリゼーションに伴う商圏広域化への対応が優劣を分けた主要因となったとされ、特に地方都市ではこの傾向は強く表れ、ロードサイド対応の成否が命運を分けたと思われる。

 しかしながら、高齢化の進行に伴うモビリティの低下と、郊外から進行する人口減少が、小商圏化へのシフトという、50年を超えるスーパーの歴史のなかでも経験のない環境変化となりはじめており、商圏広域化を前提とした戦略を転換していくことも必要となってきているのではないだろうか。

 一方で、コンビニやドラッグストアといった、小商圏に適した異業種小売業が存在感を高めて、スーパーの強力なライバルとなってきて おり、同業種間以上の熾烈な競争も予想される状況にある。

 コンビニはこれまで主要顧客層としてきた若年「一人暮らし」世帯のみならず、コンビニ利用に抵抗のない世代にシフトしていく高齢者世帯や、生鮮食品の品揃えの充実、加工度の高い食材の開発により、二人以上の家族世帯も顧客層に取り込みを図り、「近くて便利な」スーパーとしての機能を発揮するよう進化しつつある。

 化粧品や大衆薬・日用消耗品で従来から女性客を取り込んでいたドラッグストアは、薬粧の利益を背景にした食品の低価格販売と品揃えの強化により、フード&ドラッグとして台頭しはじめている。

 食品スーパーは、その中心顧客層である調理を行う家族世帯に対し、商品開発力や提案機能を高めることを再徹底するとともに、増加する高齢者世帯の利便性向上を図る買物弱者支援機能の発揮や、収益力確保のための卸売事業の展開といった新たな事業機会の拡大、さらには店舗網の見直し等取り組むべき課題は多い。


 10月末の日本銀行による追加緩和に始まり、7~9月期GDPのマイナス成長の発表、消費税率の引き上げ延期とそれに伴う衆議院解散と、つい1カ月前には思いもよらなかった状況が激流のように繰り広げられている。

 本号が発刊される頃にはスタートしている新体制が、経済再生策について目の前の有権者だけでなく、次世代の利益にもつながる議論が闘わされたうえでの結果となっていることを期待するとともに、戦後70年となる新しい年が、人口減少という大きな環境変化に対応し、各方面にわたる戦後体制からの変革が本格化する年となることを願う。

 

農業のビジネス化の進展が地方再生の大きな柱(2014年12月号)

 戦後確立された日本の農業生産体制に大きな変革の波が押し寄せているが、今月号の調査は「北陸における農業ビジネス発展の可能性」として、経営の法人化・輸出の拡大・ITの活用をポイントに置き、ビジネス化の動向をレポートしている。

 人口減・少子高齢化の影響は当然ながら農業にも及び、農業従事者の高齢化とそれに伴う耕作放棄地の増大(現状は滋賀県に匹敵する約40万haにも達している)が更に進む中、6次産業化の流れもあり、新たな農業の担い手として法人による経営が増加、企業の力で農業を活性化させる環境整備が不可欠となっている。

 政府は「日本再興戦略」で今後10年間に法人経営企業体を2010年比約4倍の5万法人とし、全農地面積の8割が利用されるようにすると目標を掲げ、農地の整備・流動化を促進し、企業など意欲ある生産者に貸し出す「農地中間管理機構」(農地バンク)を今年から稼働させた。

 これを受け、イオン(株)が子会社の農業法人を通じ埼玉県の農地バンクと契約し、11haの水田を借りてコメ生産に参入すると報じられたが、北陸でも初めて10月に福井で3件の貸し付けが決まっており、企業による農業への新規参入を促進する呼び水としての効果が出てきている。

 又、販路拡大の一環としての輸出については、国産農産物の安心・安全に注目が集まっており、その信頼を支えつつあるのが、農産物のトレーサビリティ(生産履歴の追跡)の仕組みである。

 生産・流通工程を「見える化」して透明性を高め、問題があれば経路をさかのぼって原因を究明し、安全性を保証する。

 さらには生産者や担当者、販売者の名前や顔写真、イラストなどを商品包装にきめ細かく表示するなど、消費者の信頼性向上の試みも始まっており、これら安心・安全への取り組みはまさに付加価値となり、先細る国内市場とは裏腹に拡大を続ける海外の消費者にアピールし、日本の農業の国際競争力の強化・輸出の拡大に繋がっていくと思われる。

 このようなアゲインストの風が厳しい状況の下、安倍首相が日本を取り戻す戦いの第2章と位置付ける改造内閣が発足、経済成長こそが最優先課題と宣言された。

 IT化の動きとしては、人気の日本酒として注目を集め、売上高をこの10年で6倍と驚異的な伸びを示した山口の純米大吟醸酒「獺祭」の蔵元である旭酒造の取り組みも興味深い。

 海外も含めて今後の一層の需要増が予想されることから、生産能力を現在の3倍にまで高めるよう設備を増設中であるが、一方で原料となる山田錦は背丈が高く、風で倒れやすく、「いもち病」にも弱いという生産の難しさから生産者が限られ、8万俵必要なところ、調達量は4万俵に留まり、慢性的な品薄状態という課題を抱えていた。

 この解決に向けて、調査の中にも報告されている富士通のクラウドサービスを活用した科学的手法による生産安定化への取り組みが行われている。

 IT機器を駆使し、水田の土の質や気象、日々の作業記録などの細かいデータをクラウドで蓄積・管理し、効率よく育てるためのノウハウをマニュアル化して農家に提供することにより、生産者と生産量を増加させることを企図している。

 農業のビジネス化の進展が、地方の雇用拡大・人口流出防止・産業活性化につながり、地方創生の大きな柱となっていくことを期待したい。

 

デフレ脱却による持続的経済成長と財政再建の両立のために大胆かつ迅速な対応が求められる(2014年11月号)

 今年の夏は、西日本の太平洋側で平年の約3倍の降水量となり、日照時間も平年比54%と統計史上それぞれ最大・最少を記録、北陸地方でも平年の2~3倍の降水量となるなど30年に1回以下の頻度でしか発生しないとされるほどの異常気象だった。

 今月号は半期に1度の産業天気図を調査・公表しているが、こちらの天気図にもその影響があらわれており、特に、夏野菜の不作による価格高騰や、気温低下による夏物衣料やビール・清涼飲料水、エアコン等の売上減少が響き、大型小売店や、家電販売店、外食産業等の26年下期業績見込みに影を落としている。

 全国ベースでも、7月の全国百貨店売上高は前年同月比2.5%減、コンビニエンスストアは同0.7%減、スーパー売上高も同2.1%減といずれも4カ月連続の前年割れとなり、消費税の反動減もあるが、天候不順が大きく影響したようである。

 一方で、今年度4~6月期の実質GDPは年率換算で前期比7.1%減と大きく落ち込んでおり、とりわけ、民間消費支出が前期比5.1%の減少と、1~3月期の増加率以上の数字となったことから、駆け込み需要の反動以上の落ち込みを示したとされた。

 北陸3県ベースでの推計結果についても今月の北陸のQEに記載のとおり、民間消費支出は県別には多少のバラつきはあるが、3県全体で前期比4.2%の減少となっており、全国ベースよりは減少幅は小さいものの、消費支出額水準は前年同期を下回っている結果となっている。

 支出内訳を見ても、駆け込み需要の大きかった自動車、家電製品等の耐久財のみならず、半耐久財や非耐久財、サービス等の駆け込み需要の比較的小さかった項目も低調であったことから、駆け込み需要の反動以外の要因で落ち込んだことを示していると考えられる。これらの要因から、名目所得の伸びを上回る消費税率引き上げに伴う物価上昇による実質所得減少、購買力低下の影響が懸念されるところである。

 さらに、9月以降急速にすすんでいる円安の影響による、輸入食材やエネルギー価格の上昇も相まって、消費者の消費行動が更に慎重な姿勢に変化していくことが予想され、26年下期も個人消費の低迷が続くことにより、鉱工業生産の足を引っ張り、ひいては実質GDPの低下につながる恐れもあると思われる。

 このようなアゲインストの風が厳しい状況の下、安倍首相が日本を取り戻す戦いの第2章と位置付ける改造内閣が発足、経済成長こそが最優先課題と宣言された。

 デフレ脱却による持続的経済成長と財政再建の両立のために大胆かつ迅速な対応が求められるが、とりあえずは景気の下支えを図りながら、6月に定めたアベノミクスの第3の矢となるべき成長戦略を確実に実施していくことが必要である。特に、中長期的な経済の実力とされる潜在成長率を高めるための労働力人口の確保や、規制緩和や技術革新による生産性向上への対応が期待される。

 また、財政再建の柱である消費税率の来年10月からの10%への引き上げについては、11月に公表が予定される7~9月期のGDP速報値を踏まえて方向が示される予定になっているが、これまでの取り組みを踏まえた軸のぶれない総合的な判断を求めたい。

 

「女性の活躍」と「地方の元気」の両立(2014年9・10合併号)

 今年一番のヒット映画となりそうな「アナと雪の女王」は映像と音楽の美しさだけではなく、「自立した女性」が描かれている点が受けているという。それだけ今の日本で「女性の自立」が注目されている証しなのだろう。

 今月号では「女性の活躍を実現するために」をテーマに調査を行ったが、アベノミクスの主要政策の一つであり、6月に発表された新成長戦略でも女性の就業支援策として、①待機児童解消と育児・家事支援環境の拡充 ②企業などにおける女性の登用を促進するための環境整備 ③働き方に中立的な税制・社会保障制度などへの見直しなどについて具体的な提言がされている。

 そしてその結果として、2020年に女性の就業率(25歳から44歳)を73%(現状68%)にするとしているが、人口減少の中で働き手の数を確保する数少ない選択肢が女性の就業促進であることはいうまでもなく、国・地方・企業などが一体となった具体的な取り組みが求められる。 

 また、2040年に若年女性の流出により全国896 市区町村が「消滅」の危機に直面すると試算した「日本創成会議」の発表が波紋を広げていることから、単純な労働力確保にとどまらず、東京一極集中に歯止めをかけ、地方を元気にすることに結びつくような視点も意識する必要がある。

 すなわち、地方における若年女性の雇用の場をいかに確保し定住してもらうかが「女性の活躍」と「地方の元気」の両立のポイントであり、女性が大きな役割を担い、かつ今後の労働力需要の増大が予想される農業と医療福祉分野の雇用に期待したい。

 農業という観点では、大規模農業化を進めた秋田県大潟村で、農家の法人化を推進することにより、経理や総務という農業以外の仕事が創出され、若年女性の雇用の場となり人口増加につながっている事例が参考になる。また、地域農産物利用による女性ならではの知恵と感性を生かした特産加工品作りや直売所での販売など、女性の起業への取り組みも増加しており、こうした事業経営の安定化・高度化に向けた支援も重要と思われる。

 医療福祉分野については、介護需要急増が予想される都市部(2040年には要介護者の25%は首都圏に集中するという推計数値もある)と増加数の少ない地方部との地域間調整、具体的には高齢者の地方への移住促進や地方の介護施設の都市部要介護者への開放なども必要との指摘もみられる。地方部における女性の雇用吸収を現状以上に高める必要があり、待遇面など雇用環境の改善に向けた取り組みが喫緊の課題といえる。

 各地方は自らの将来像を描き、街づくりや雇用の創出のための大胆かつ迅速な対応により、「消滅の危機」の消滅を図りたい。

 読者の皆様は既にお気づきと思いますが、弊誌のデザインやレイアウトなどを徐々に改訂中であります。読みやすく、内容が伝わりやすくを基本方針として、文字の大きさ・字体や表紙・目次・記事タイトルなどのビジュアル化を図っており、今後さらにグラビアページの導入やグラフ・表の見やすさ向上を進めていきたいと考えております。

 皆様のご意見もぜひお聞かせいただきたく、よろしくお願いいたします。

 

金融のバックアップにより、今こそ高収益を確保するビジネスモデルを有効に!(2014年8月号)

日本の貿易収支は、東日本大震災を境に赤字になった。北陸の企業の景況感は、4月の消費増税後に悪化したが、多くの経営者は9月までには反動減は終息するとみている。平成26年上期のBSIは前期比19ポイント悪化したが、先行きの見通しもプラスを維持しており、ひとまずは景気の底堅さがあると確認できた。ただ、消費増税の駆け込み需要の反動で、景況感が悪化した業種も少なからずあった。内需の影響を受けやすい非製造業のBSIは、±0前後(良いと悪いがほぼ同数)であり、厳しい景況感を持っている経営者は少なくない。同時に発表した北陸の四半期経済速報(北陸のQE推計)の実質経済成長率1~3月期年率は2.9%(同全国平均6.7%)となった後、4~6期はマイナスになった公算が大きい。政府は、今年度予算の着実な執行により景気の下支えとともに、6月に発表した改訂成長戦略の実行を急いでほしい。今回の成長戦略は、法人減税・労働市場改革・ロボット革命・サービス業の生産性向上・国家戦略特区などの施策で潜在成長力を引き上げるものだが、時間を要すると思う。

 人手不足が広がっている。流通・サービス・建設・情報技術関連など幅広い業種、分野で人材を確保できない状況が出てきている。このデフレの15年余り、非正規の若年労働者を十分確保でき、人件費を抑え低価格で商品・サービスを提供し、業績を維持、成長して来た企業にダメージが出始めている。少子高齢化が進めば、若い労働力 は貴重になる。

 今回の調査でも、20代、30代の正規社員の不足感を訴える企業が相当数出てきている。また、景況感の改善と人材獲得を背景に、賃上げを行った企業は7割に達する。業績が改善した大企業が春闘で賃上げに動いたことから、人手を確保するため、中小企業も賃上げを余儀なくされた構図は少なからずあったと考えられる。ただ、円安株高の恩恵を受けた大企業に比べて、地方の中小企業の業績には格差があり、回復は遅れている。地域経済を支える中小企業に一段と目配りした政策運営が求められる一方で、企業サイドにおいても付加価値生産性を高める努力が必要不可欠になる。日本の「稼ぐ力」創出研究会は、日本企業の低収益性の背景と収益向上への取り組みについて以下のとおり指摘しているが参考になるので紹介したい。

 日本企業の低収益性の背景には、高度成長期以来の売上高や市場シェアの量的拡大を目指すビジネスモデルの転換が遅れていることにある。グローバル化の進展、情報技術の高度化、消費者の価値観の多様化といった環境変化に対応し、「規模・多様性」と「スピード」を同時達成し、高い収益を確保する新たなビジネスモデルを検討する必要がある。それらの例示として、6つの典型的な価値創造パターンを提示している{①グローバル・ニッチ・トップ型②開発・生産分離型③ソリューション型④マーケティング主導型⑤ファンド型⑥プラットホーム型}。内容は省略するが、これらのビジネスモデルを有効にするには、金融のバックアップが大切ではないだろうか。日本は圧倒的に間接金融で成長を図ってきた社会であり、金融機関には「目利き力」をブラッシュアップして、低収益企業へのガバナンス関与と事業育成という間接金融の基本を徹底して貫いて欲しい。

 

10年の変化と中長期戦略(2014年7月号)

 日本の貿易収支は、東日本大震災を境に赤字に転じたが、年々拡大し2013年には11.4兆円となった。2010年は6.6兆円の黒字であり3年間で18兆円悪化したことになる。所得収支の黒字が大きいため経常収支は依然として小幅な黒字であるが、これが経常的に赤字化し拡大していけば、資金の流失ということになり、財政ファイナンスの不安定化につながる。

 貿易収支悪化の最大の要因は、鉱物性燃料の輸入増10兆円であるがその70~80%は原油価格と天然ガス価格の増加と円安である。これらは、エネルギー価格が低下すれば、それ相応に貿易赤字は低下していく。もう一つの要因は、アジアとの貿易収支の悪化8.4兆円である。商品別の中身をみると電機部品、半導体、半導体製造装置などのウエイトが高く、またこれらに属する産業の海外現地企業の生産が落ちていること、これらの製品の輸出額はリーマン前の水準に達していないことから、産業競争力の劣化が危惧される。

 日本のエレクトロニクス産業は、戦後欧米のパテントを活用し、自社で研究開発した基幹部品を、自社の最終製品に搭載して販売する「垂直統合型」の形態で成長してきた。しかし、この10年で、部品のコモディティー化が進み、アジアを中心に低価格を武器にする部品メーカーが台頭、これらの企業から部品を調達し最終製品を作る「水平分業型」の事業スタイルが主流になり、更には、日本企業の得意とする摺合せ型に比べ、ローコストであるモジュール化も進み、多くの日本メーカーが苦戦を強いられるようになった。これらの劣勢を産学官金の知の連携で跳ね返して欲しいと思う。

 「首都圏の観光ニーズを探る」では、観光地としての北陸のイメージをいかに高め、浸透させていくかが大きなカギと分析提言している。もう一つのカギはリピート率をいかに上げるかではないだろうか。この点に関しては、成熟マーケットのなかで増収増益を続けている東京ディズニーリゾートの運営会社オリエンタルランド会長加賀見氏の話が参考になるので紹介したい。

 当社が行った定量分析によると「満点の数」がリピートを生み、顧客満足度がゲストの体験したアトラクションの数に必ずしも比例しないという事実。具体的には、アトラクションを「非常に満足」から「非常に不満」まで5段階で評価した場合「非常に満足」の絶対数こそがカギになる。例えば、A,B,Cの3人がいて、6回、7回、4回のアトラクションを体験して「非常に満足」がそれぞれ4回、2回、3回であった場合のリピート率が一番高いのは、「非常に満足」が4回の人で90%とのことである。

 このことが観光戦略に一律に適用できるわけではないが、示唆に富んでいると思う。この観点からすれば、観光資源を北陸エリア全体でアピールし、それぞれの魅力を高めていくように、具体的な経営戦略を立て現場のオペレーションに落とし込んでいくことが大切だと思う。北陸エリア全体を観光客が捉えるとすれば、一度の滞在で回りきれない広さとも考えられ、「もう一度訪れてみたい」という期待感にもつながる。短期的な集客に終わらせることなく、顧客満足度を高めるべく顧客ニーズを常にウオッチ・分析し、また時には大胆な投資も実行して、中長期の成長を狙っていくことが望まれる。

 

海外需要を取り込む“力”の源泉(2014年6月号)

 今月号ではプラスチック成型、工作機械の二つの業界の現状と課題について調査を行った。当該業界に限らず、世界の大きな潮流からは避けられない現状や課題が改めて浮かびあがったが、すでに多くの方々が認識されていることばかりであると思う。

 特に、海外需要を獲得できる製品の国際競争力、海外生産と国内生産の連携と国内への仕事の還流、さらにはそれらを可能にするビジネスモデルとマネジメントの確立が大切である。2~3年前までの日本企業のおかれている現状、すなわち円高、電力危機、サプライチェーンの分断リスクの状況では見失われがちになりがちだが、海外需要の獲得が日本企業にとって必要な最大の理由は、国内需要の収縮である。

 超円高に対応できるようにすることは、確かに製品の国際競争力の維持に資すると思う。しかし、単に価格競争力維持だけのための海外生産ならばあまり効果は大きくない。円安傾向に逆戻りした途端に効果はマイナスになりかねない。また、コストダウンを人件費カットとほとんど同義語にしてきた戦略は、結局は価格競争力に訴える方向へと働き、かえって本質的国際競争力を殺ぐ結果となっていないかよく検証すべきである。海外需要を獲得するための本質的な国際競争力は、やはり言い古されてはいるが、製品開発力、設備投資力、デザイン力、商品力、マーケティング力など非価格競争力を作り上げることである。

 また同時に、仕事の国内に還流する仕組みを作らなければならない。海外進出した事業活動が拡大すると日本国内の仕事量が増えていく仕組みである。たとえば、日本国内から基幹部品・基幹素材を海外の生産基地に向けて出荷する工程間国際分業の仕組みであり、輸出とどちらの手段で海外需要を獲得するのかよく検討する必要がある。

 内閣府「海外生産の動向と輸出への影響」の資料によれば、主要品目別に状況が異なる分析を示している。①輸送用機械は、アジアでは現地市場の拡大に対し、現地生産の増加で対応している。また、アジアや北米において第三国向け輸出が増加していることから、国をまたいだ供給体制が整備されてきたことが示唆される。②一般機械は、海外生産比率が低いことを反映して、いぜんとして輸出金額が海外現地売上高を大きく上回る水準にある。しかしながら、最近数年間はアジアにおいて現地販売額、第三国向け輸出が増加していることから、海外生産比率が上昇傾向にあり、海外現地生産が輸出を代替する効果が大きかった可能性が示唆される。③電気機器は、海外現地法人の売上高と日本からの輸出金額がともに減少しており、同産業における競争力の低下が輸出金額の伸び悩みにつながった可能性が示唆される。

 国内から海外へ押し出していく原動力は何か。その一つはイノベーションであり、海外へのイノベーションの成果の供給基地として、国内の生産基地や開発基地が機能している企業、産業がしっかりとした業績を残している。国内立地の工程が企業の競争力の源泉であるという共通点がある。また同時に、ITシステムを駆使したマネジメントが必要だが、最後は人間の判断力であると思う。その判断の適切性を確保するために、日本国内の事情に精通したうえでの国境を越えたコミュニケーションが大切ではないだろうか。

 

チャレンジ+イノベーション+共創~これからの紙面づくりに向けて(2014年3・4合併号)

 今月号では、長寿企業について調査したが、一般的に企業の寿命はどれくらいであろうか。25年経済財政白書に調査データがあるので御参考までに紹介したい。2012年の1年間に1万633社(負債1000万円以上)の倒産が観測されたが、平均的な業歴は25年程度であった{同年の法人企業数110万社程度(資本金1000万円未満除く)}。また、廃業率を加味した、企業が40年間生き残る平均的な残存確率を機械的に求めると、2000年代平均で24%である推計を算出している。したがって、雇用者サイドからみれば、40年以上の長期に渡って働き続けるということは、一度や二度の転職は発生しうることであり、そうしたことを前提に社会の仕組みづくりが必要である。一方、経営者サイドから見れば永続性のカギは何かを追い求めなければならない。

 今回の調査で長寿の要件を考えるに、大きく分けて三つ挙げられるのではないか。一つは企業のチャレンジ(創業者精神)、二つ目はイノベーション、三つ目は共創(異分野の活力の取り込み)である。また、時代・環境の変化により、危機を幾度となく経験し、見事に乗り越えてきている。

 第一のポイントについては、人口減少や収益性の低下傾向の中でも、創業者精神を発揮し、人材・資本・資金を有効活用するとともに、生産性の高い分野にシフトさせ、生産性を高め、その中で脈々とその哲学が受け継がれている。

 第二のポイントについては、有形固定資産の投資だけでなく、いかに以前と違う楽観的赤字部門を持つかが重要であり、例えば研究開発とその実用化への取り組みである無形資産投資を継続していることである。別の言い方、シュンペーターの言葉を借りれば、創造的活動による新製品開発、新生産方法の導入、新マーケットの開拓、新たな資源(の供給源)の獲得、組織の改革などにより、新たな付加価値を創造することである。

 第三のポイントについては、最近では製造業だけではなく、サービス業においてもICTを活用して、時代を先読み・先取りした戦略で世界から注目を集め、海外需要を取り込んでいることが挙げられる。折しも、日本を訪れる外国人旅行者は2013年12月に史上初の年間1000万人を突破した。日本について外国人は特に「豊かな伝統と文化」「アニメ、ファッション、料理など新しい文化の発信」「美しい自然」といった点で魅力ある国と受け止めている。(東京散歩今むかし)「東京五輪招致までの逆転劇」の中で、前回失敗した誘致合戦をいかに戦い抜いたかは、日本の観光関連産業において考えるべき点を示唆していると思う。

 もう一つの調査は「北陸の繊維工業の現状と課題」で、業界の変遷を俯瞰しその活路と実現への正負両面の要因を探った。今年がデフレ脱却の年となるかどうか不明だが、各業界の現状と課題をこの1年探って行きたい。

 また、今月号からタイのカシコン銀行との提携により、「タイ経済情報」を年2回程度掲載する予定。日本銀行によれば、2012年末の東南アジアにおける日本の直接投資額は、シンガポール、タイの順に大きく、タイで約3兆円である。製造業に限ってみるとタイはシンガポールの約2倍の2.4兆円規模で、北陸の企業も数多く進出している。レポートの内容は、昨年の第4四半期から始まった国内政治的緊張の高まりが、今年のタイ経済に与える影響をまとめている。ご参考になればと思う。

 

真の「デフレ脱却」へ(2014年2月号)

 今月号では、経営者の景気見通し(平成25(2013)年12月現在)を調査したが、平成25年6月に比べて、BSIが+2に対し+34となり、景況感の大幅な改善であった。

 もうひとつの特徴的な点は、平成26(2014)年の前半の見通しは、BSI+3と前々回と同じレベルであり、このまま景気の回復傾向が続くと考えている経営者は多くはないという結果であった。この要因については、確かに消費税の引き上げの反動、円安による資材価格、エネルギーコスト上昇などを経営者の方々は挙げているが、この他に20年来続いたデフレの悪循環を本当に脱却できるのかの不透明感があるのではないだろうか。

 それではなぜ、日本だけがデフレという悪循環に陥ったのか。原因は何だったのかを明らかにしておく必要があるが、「経済の好循環実現検討専門チーム」の中間報告(25.11.22)によれば、以下のとおりの分析結果をまとめている。

 第2次世界大戦後、諸外国がデフレに陥らなかった理由は、金融政策を含むマクロ経済政策がその役割を果たしたことに加えて、名目賃金が上昇し続けたことが考えられる。しかし、日本では、1990年代末頃から名目賃金は低下傾向にあり、デフレ・ストッパーの役割をもつ名目賃金の「下方硬直性」が失われた。このことがデフレの大きな要因になってきたと考えられる。また、この間、正規雇用から非正規雇用への転換が大きく進んだことも、名目賃金の低下をさらに加速した要因となった。国際比較をみても、他の先進国では名目賃金は物価よりも高い率で上昇している。日本だけ、物価の下落以上に賃金が下がっている姿は異常である。

 以上の指摘に対して、今回の経営者の景気見通しの調査の中で、平成26年の賃金について、全体で32.4%の経営者が「賃上げ予定」としていることは、大きな変化である。中小企業ベース、製造業、非製造業の業種別においても、ほぼ同様のレベルであり、大きな格差はない。それでは、大都市ではどうかを見てみると、25年10月の東京商工会議所が中小企業などに行ったアンケート調査によれば、2628社の回答企業のうち、約35%の企業が賃金総額を増加させており、その多くが毎月の基本給を引き上げたとしている。

 確かに賃金上昇が需要を増やし、更なる企業収益改善につながるという好循環を実現するために必要との共通認識を醸成し、早期にデフレマインドと悪循環から脱出すべきであるとの考え方に一理あるも、好循環を持続的成長につなげていくためには、生産性を向上させることが不可欠ではないだろうか。その際、生産性の上昇を価格引き下げで吸収するのではなく、新分野の開拓や、プロダクト・イノベーションを通じて付加価値を高め、単価を引き上げながら需要を創出していくことが重要であると思う。

 今月号のトップインタビュー、企業紹介、チャレンジで紹介させて頂いた企業は、それぞれの製造分野において、不断のイノベーションを追求している。「スマイルカーブ」を意識して、「オープンイノベーション」を取り入れ、欧米より生産性を高め、賃金上昇につなげていく企業が、数多く出てくることを期待したい。

 

マクロとミクロの融合(2014年1月号)

 新しい年を迎えるにあたり、皆さまには良い年になりますようお祈り申し上げます。

 この1月号では、北陸の四半期経済速報(北陸のQE推計)を公表することとなった。QEを利用することにより、まず北陸における足元の経済状況について、変化の方向・規模を把握し、同時に、消費や投資などがどのように地域経済の成長に寄与しているか、また経済主体需要項目別ではどうかの要因分析、次に、従来の地域経済指標等と併せて総合的に把握分析することが可能になると考えている。

 留意点としては、レポートの「本推計を見るうえでの主な留意点①~⑥」でもお願いしているとおり、推定結果についてはあくまでも試算として、ある程度の幅を持って見て頂ければと思う。

 全国レベルのものとして国のQEがあるが、北陸の経済動向とは必ずしも一致していない場合もある。地域、県域のQEを作成することにより地域経済の経済動向(経済実態)を一定レベルで把握することは、意義のあることと考え取り組んできた。これにより、短期の地域経済指標として素早く変化の方向、規模を把握していきたい。

 国の経済的豊かさの測り方の一つとして国内総生産(GDP)が用いられるが、ご承知のとおり、一国内の労働、資本、土地などが協働して一定期間に生み出した付加価値を国全体で集計したものである。経済活動の生み出す経済価値は血液のように循環しており、生産、支出、分配、という側面から計測できる。同じように四半期ベースで北陸3県においても計測可能となる。この循環は、生産面からみると経済活動別に産業(農業、製造業、サービス業)、政府サービス生産者、対家計民間非営利サービス生産者(私立学校など)の他、経済活動別に把握のできない輸入税・関税、固定資本消費税に分類される。産業で言えば、どの業種で成長、変化しているかを把握することができる。次に、生産された消費財(食品、自動車など)や投資財(機械設備など)への支出、政府支出、輸出(移出)など「支出面」から把握・計測でき、多面的に分析することが可能になる。

 経済動向の分析や変化の把握は、個別分野の統計指標や各種サーベイ調査により、ある程度全体を見通すことはできるし、それで十分であるとの考え方もあるが、例えば、鉱工業生産指数は経済全体の一部を占める製造業の動向をあらわす指標であり、その他の業種動向は不明、景気動向指数は、直近の景気動向の方向性を捉える指標としては有用であるが、経済全体の総量やその推移を捉える指標としては利用できない、また毎月勤労統計調査は、雇用、賃金動向はわかるが、サンプル調査であるためマクロ経済の動向がわからないという側面がある。従って、これらの地域経済指標とともに足元の景気判断の妥当性の検証に、このQEの活用は有用と考えている。

 当研究所においても、産業天気図、経営者の景気見通しを調査しているが、これらの調査とQEをマクロとミクロの融合として、また、足元の経済情勢から1~2年後の景気見通しの推計資料としても活用できればと考えている。

 いろいろ課題はありますが、皆さまのご意見をいただきながら、より精度の高いQEにしていきたいと考えています。

 

企業競争力と人的資本投資(2013年12月号)

 今月号では、3Dプリンタの概要と利用動向について調査した。すでに多くのメディアで報道されているように、子供や学生、プロなどだれでも使えるようになった。利用の範囲も個人のホビーユース、製造業の設計、教育など多種多様になっており、プロシューマー型の企業家により、大きな可能性を秘めた市場が出現するのではないかともいわれている。試作品づくりのハードルが下がり、開発や設計の段階では柔軟性が発揮でき、短いサイクルで試作したり改良したりする分野では大きな利点があると考えられる。製造業だけでなく医療分野においても活用が進んでいる。心臓疾患やガン化した臓器のCT、MRIデータから3 次元造形し、手術前にシミュレーションすることにより手術時間の短縮、経験の浅い医師へのナビゲーション機能、また患者への説明としても活用され治療効果を上げている。さまざまな分野において、北陸の地にもたくさんの起業家が現れてほしいと思う。

 25年版の経済財政白書では、日本企業の低収益性の分析を行っているが、要約すれば以下のとおり。

 全規模全産業のROA(総資産利益率)を米国、ドイツと比較すると日本企業の収益性は低水準にとどまっている。業種別にみても日本の製造業の収益性は米国を下回る傾向にある。その背景を分析した結果、①製品の差別化がすすんでおらず、企業間の収益性のばらつきが小さいこと(日本の製造業のROAの分布の標準偏差…いわゆるボラティリティーは7 . 4%に対して米国12 . 2%、ドイツ23 . 7%)。②非効率な企業の退出が妨げられているため、企業の新陳代謝が進まず産業の構造調整が遅れていること。③企業の資産活用の効率性が低いことなどを指摘している。また、非製造業については、情報通信技術(ICT)関係資本の蓄積が低迷しており、特にハードウエアと比べてソフトウエアの投資に遅れがみられることを明らかにしている。

 これらの指摘のなかで、企業の競争力を高めるためには、企業による取り組みが基本となるが、それを支えるには何が必要であろうか。やはり人的資源の活用に尽きるのではないだろうか。

 しかしながら、現状は、東西冷戦終結後のグローバル化の中で、企業がすべての従業員に正社員としての安定的な雇用を提供することが難しくなっている。これにより、企業による人的投資を期待することが難しい非正規雇用の比率が増大し、人的資源の形成・活用に問題が生じてきている。これらに対する改革の具体的方向性として、「成長のための人的資源活用検討専門チーム」の報告書には、①正社員と非正社員の二極化した状態から、限定型の正社員を含めた「多元的な働き方」を可能とすること。②企業内外で{適所}を得るために、適切な職業能力評価制度と専門能力活用型のジョブ型労働市場を整備していくこと。③若者が安定した職を得ること通じて職業能力を培うとともに、中高年になっても時代の変化に応じた「学び直し」ができるような仕組みを作ること。等が提示されている。これらには異論はないが、実効のあるものにするためには、個人の人的資本投資を促すと同時に、個人の視点から判断してそれが妥当だと判断されるような将来像の提示が必要ではないだろうか。

 

25年上半期 北陸産業天気図に思う(2013年11月号)

 最近の明るい話題と言えば、2020年のオリンピック東京招致だろう。招致プレゼンは良く練られていたし、その中で特に佐藤真海さんのスピーチには考えさせられることが多く、また、久しぶりに多くの人がすがすがしい思いをしたのではないだろうか。

 骨肉腫で足を失い、絶望のどん底にあった自分を救い、奮い立たせてくれたのがスポーツ。そして彼女は目標を決め、それを乗り越えることに喜びを感じたが、何より自分にとって大切なのは、私が持っているものであって、失ったものではないことを学んだと述べている。

 今月号は、半期ごとの産業天気図を調査公表しているが、北陸の主要産業の業況は、依然まだら模様の部分は残る。しかし製造業、非製造業ともに上向いて、24業種のうち9業種で上方修正となった。

 北陸の産業天気図を数値に置き換えた平均指数(加重平均)を見るとリーマン・ショック前には及ばないが、5年ぶりの高水準で曇りレベルまで回復している。上向きの要因をキーワードで見れば、高額品の売れ行き好調、円高修正で採算改善、自動車産業の輸出好調、猛暑によりエアコン売上急増、スマホ・タブレット端末好調、公共工事請負、新規住宅着工ともに2ケタ増、消費税増税前の駆け込み需要と言ったところ。

 この背景の一つに、資産効果が挙げられる。政権交代の24/11以降、日経平均は上昇し、25/9東証一,二、マザーズの時価総額は425兆円とリーマン前には及ばないものの、150兆円増加し、家計・企業部門にキャピタルゲインが生じている。ただし、その押し上げた主体は、投資部門別株式売買状況をみると、買い越し累計約10兆円の海外投資家。誤解を恐れずに言えば、アベノミクスを海外勢は信じ、国内勢は疑心暗鬼。

 一方、足元では賃金上昇が物価上昇に追い付かず、消費者態度指数(消費者の景気の動きに対する意識を示す指数で50以上で良くなる)も50割れが続いており、消費者心理の改善は今一歩の状態と思われる。この中で10月1日に消費税の引き上げが決定された。97年の引き上げが景気減速の契機となったことから、さまざまな議論があるが、当時と今回には大きな違いというか特殊要因があったと思う。

 一つには日本版財政の崖、二つ目にはアジア通貨危機、三つ目には国内金融危機。特に、地域の中核金融機関が破綻したエリアの企業は塗炭の苦しみを味わったことが今でも鮮明に思い出される。

 現在、金融機関のバランスシートは大幅に改善し、むしろ預貸率低下の対応を迫られている。要因は企業部門の資金余剰感で、伸び悩む設備投資に加えて投資がキャッシュフローの範囲内が主因と考えられる。内閣府によると、製造業は、生産設備の稼働率が低下、非製造業は、日本経済がどれだけ成長余力があるかを企業が予想した期待成長率が低下しているからと分析している。

 一方、北陸地方においては、北陸新幹線開業を起爆剤にできれば様相が違うとの期待がある。また、業種によっては現状の成長率を上回る経済波及効果を期待できる試算もある。そうであれば、投資のグランドデザインを描き、目利き力のあるステークホルダーとともに共創していくことが大切ではないだろうか。

 

予測されるのは変化だけ(2013年9・10合併号)

 編集作業に追われている時に参院選が終わり、ようやくねじれ国会が解消し、安倍首相は秋の臨時国会を「成長戦略実現国会」 と位置付けた。ご承知の通りすでに第一、第二の矢は放たれて、株価上昇による資産効果、年初の緊急経済対策が需要の下支えとなり、また円安もあり企業の生産・輸出は底入れし、個人消費に明るさが出てきた。

 一方、世界経済のリスクも高まっている。一つには中国経済の調整圧力が顕在化したこと。具体的には、素材産業を中心とした生産の過剰感は払拭(ふっしょく)されず、国際商品市況の悪化要因となった過剰設備問題、次にその裏側にある銀行の過剰融資の存在と加えてシャドーバンキングの急拡大。結果、融資残高はGDPを大きく上回り、不動産価格の高騰と相まって不良債権増大のリスクが高まったことがあげられる。次に米国QE3縮小・終了が世界的金融市場混乱につながるリスク。バーナンキ発言により、米国10年物国債金利は5月1.6%、7月2.7%と上昇圧力がかかりやすい地合となっている。また、金の先物価格は2011年のピークから約3割の下落、加えて5月末以降、新興国を中心に株安・通貨安・債券安のトリプル安が進行し、資金流出のリスクが高まっている。輸入超過の経常収支赤字国にとっての通貨安は物価上昇を通じて景気を悪化させる恐れがあることも忘れてはならない。このように最近の金融のみならず商品市況、技術の世界に至るまで、予測されるのは変化だけと言っても過言ではない状況でおり、さらにはその振れ幅は大きくなっている。商品市況の非鉄金属においては、ドルベースの国際価格は大幅に下落している。非鉄は世界景気の変化に敏感で国際商品市況を主導するケースが多く、中国景気の不透明感に反応していると考えられ、銅・アルミニウムの6,7月の国際価格は昨年の高値比で2割内外安い。一方国内価格は昨年比、円安の影響もあり上昇している。また、大豆、原油価格のように国際価格の上昇と円安が加わり国内価格が高止まりしている商品もある。それらに関連する企業の業績は下振れしており、例えば大豆の原料価格は、昨年比3割前後上がり、原材料比率30%の業態であれば、粗利で10%程度減益となり、値上げができなければ厳しい運営も予想される。

 この中で、北陸の経営者の景気見通しを本誌8月号で調査しているが、業況判断は大幅に改善している。ただし、中小企業ベースで製造業37%・非製造業26%が悪くなったと答えており、水準は低くないと思われる。もうひとつの特徴は、最も望ましい為替水準の質問に対して、ドルベースで100円を挟んでプラスマイナス5円前後と答えた企業が7割いることである。従って、現状は既に円安ではないと言うこともできる。しかし、現状100円前後の水準で悪くなったと答えた企業も少なからず存在し、その多くは、仕入れ価格上昇分の価格転嫁は厳しいとしており、北陸の景況感はまだら模様が続くと考えられる。

 そうであれば、第一、第二の短期政策が効いているうちに、第三の成長戦略を実行する必要があるのではないか。先の6月に産業競争力会議のまとめた94ページにもわたる政策は、色々と批判もあるが、さまざまな要素の詰まった政策であり、よく勉強してみてはいかがかと思うが、読者の皆様はどうお考えでしょうか。